接吻ーkissー
菊地さんはまた息を吐くと、
「今考えてみると…認められるまで粘るって言う手もあったけど、あん時の俺は青かった。

青かったから逃げるなんて言う幼稚な考えしかできなくて、ホントに情けねーな」

困ったと言うように、額に手を当てた。

「その後、俺は椅子を作る工場に就職して働き始めたものの…やっぱり、ピアノが忘れられなかった。

嗜む程度にピアノは弾いていたけど、やっぱり忘れられなかったんだ。

そんな中で俺は、とある広告を見たんだ。

それが『bar Shadow』の楽器の演奏者募集の広告だった。

迷わず受けたよ。

結果合格して、バーの雇われピアニストになったって言う訳だ。

俺が働いていた工場は3年前に経営破綻で潰れちまったから、今はそれが頼りだな」
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