今宵は天使と輪舞曲を。

「気易く話しかけないでほしいわ」

 見惚れそうになる自分の意志の弱さに心の奥で毒づいた。

 心なしか人々の鋭い視線を感じる気がする。メレディスが視線を上げると――ああ、なんということだろうか。視線を浴びているのはけっして気のせいではなかった。

 足の爪先から頭のてっぺんにかけて血の気が引いていく……。


 ふたりきりで庭にいた翌日にゴシップとして取り上げられるくらい有名なラファエル・ブラフマンという人物がどれほど世間から注目されているのかをまざまざと思い知らされる。

 彼ら、若しくは彼女らは皆、メレディスがラファエルに相応しくない淑女だと思っているのは間違いない事実だ。

 冷たい視線を一身に受けているメレディスは怖じ気づきそうになる。体が凍りつく。


「あら、ごめんなさい。埃を被った置物かと思ってしまったわ」
 紳士と淑女のひと組がわざとらしくメレディスの肩にぶつかるなり、淑女はメレディス本人にのみ聞こえる声で彼女を侮辱する言葉を寄越す始末だ。

 それでも、今は泣き崩れるわけにはいかない。大衆の面前で惨めになるのはもうたくさんだった。尖った顎先をつんと上げると澄まし顔を作り、明後日の方向を見やる。


 見えるのは紳士淑女に入り交じって楽しげにワルツを踊るジョーンと、それからヘルミナの姿だ。


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