今宵は天使と輪舞曲を。
モーリス・ブラフマンはとても気さくな男性だ。動物を好きな人間には悪い性格はいないというのはメレディスの持論だが、彼はまさにそうだと思った。
「君は馬について少しは詳しいのかな?」
「半年前まで馬を飼っていました」
「どんな子だったの?」とキャロライン。
「名前はクイーン。クリーム色の馬で、穏やかな大きな目をしていたわ」
「その馬は君と一緒にいられてさぞ嬉しかっただろうね」
「そうだったらいいのですが……でも、だめね。飼い主の勝手な経緯でクイーンを手放してしまった。あの子はきっとわたしを恨んでいるわ」
目を伏せればクイーンを手放すことになった当初を思い出す。悲しそうに鳴く彼女の声は今もメレディスの耳の奥に残って離れない。
彼女との別れを思い出すだけで胸が引き裂かれんばかりに痛み出す。息苦しさに堪えきれず顔を俯ければ、頬にあたたかな温度を感じてはっとした。顔を上げると、目の前には一頭の白馬が頬を擦り寄せていたのだ。
「慰めてくれているの?」
なんて優しい子なのかしら。
艶やかなたてがみはクリーム色をしている。嬉しくて頬を撫でると、馬もまたメレディスに擦り寄ってくる。
「ねぇ、その子にしたら? あなたが気に入ったみたい」
「そうだね、それがいい」
各々の馬に乗った三人はブラフマン家が所有する領土にやって来た。なんでも木々が茂ったこの森は視界も良好で馬を走らせるのに最適だとか。けれども流石はブラフマン家だ。