今宵は天使と輪舞曲を。

 骨張った指がメレディスの手を撫でる。彼の爪先がメレディスの指の一本一本を確かめるように丁寧になぞりあげていく。

 触れられた指の先から痺れるような微量の電流が生まれ、みぞおちに溜まって全身へと抜けていく――。
 まるで愛撫でも受けているかのようだ。
 メレディスは彼に与えられる甘い疼きで呻きそうになった。

 ――このままわたしは死んでしまうのかしら。

 包まれた手から彼の体温が伝わってくる。
 メレディスはラファエルの存在を強く感じ取った。
 食事をする場所でこんなふうに触れ合うのは不謹慎だ。けれどもメレディスは彼の手を振り払うことができなかった。
 どうするべきかと回らない頭で考えていると、それは杞憂に終わった。目の前に食事が運ばれるとメレディスは解放された。それでも心臓の鼓動は速い。彼にそっと囁かれた耳も熱を持っていた。

 いや、耳だけではない。体中のすべてがラファエルを求め、熱を持つ。

 ほんの少し視線を上げて彼の方を見れば、それはほんの一瞬だったが、視線が重なる。彼の強い視線がメレディスを見ていたのを知った。

 ――ああ、やっぱりさっきの話は聞き間違いではなかったのね。

 湖で会おうと言ったのは幻聴ではなく、本当にラファエルからの誘いだったのだと確信すれば、ついさっきまであった不安や悲しみがすべて消える。
 その代わりに顔から火が出るのではないかというくらい、メレディスの体は熱気に包まれた。朝食の味なんてわかりはしない。
 ただ黙々と口に運ぶ作業を繰り返すばかりだった。



《密やかな誘い。・完》
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