今宵は天使と輪舞曲を。

 キャロラインは胸の前で腕を組み、不服そうに唇を尖らせている。

 彼女の怒りはメレディスのことを第一に考えてくれているからだ。
 そのことがとても嬉しく感じると同時に、打ち明けていないことがあったのを思い出してまた胸が痛くなった。

「キャロライン、わたし、貴女に打ち明けていないことがひとつあるの。あの日、実は猪に襲われただけではなくて、この敷地内で人攫いにも遭いかけたの」
 キャロラインがこちらに顔を向けた雰囲気が伝わったものの、メレディスには彼女の方を見る勇気はなかった。こんなに心配してくれる彼女に何も打ち明けず、黙っていたことが居たたまれなかったからだ。
 もしかするとこれが理由で彼女にも嫌われてしまうかもしれないと、臆病風がメレディスを襲った。
「人、攫い……この敷地内で?」
 キャロラインの問いに、メレディスは静かに頷いた。
「信じられないわよね、家令(ハウス・スチュワート)執事(バトラー)。メイドたちも、みんな自分の仕事に誇りを持ってブラフマン邸を守っているもの――」
「どうやって侵入したのかは分からないけれど、でも人攫いに遭ったのは事実なんでしょう? 何もされなかった? 怪我も?」
「ええ、彼らに襲われそうになった時、不幸中の幸いだったわ、巨大な猪が現れて、無我夢中で彼らを振り切って猪からも逃げていたらラファエルが助けてくれて本当に助かったわ。貴女には余計な心配をかけたくなくて黙っていたの、ごめんなさい」


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