今宵は天使と輪舞曲を。

「正直言って敷地内に人攫いなんて信じられない――というか、信じたくないことだけれど……」
 キャロラインは困惑しているのだろう、静かに首を振った。
「……ねぇ、メレディス。わたし、怒っているんだから」
「ええ、そうね。隠しごとをしていたものね」
 親しくしてくれている彼女に対して打ち明けていなかったのだから当然だ。メレディスが頷けば、彼女は鼻息をいっそう荒くした。

「違うわよ! 人間言いたくないことのひとつやふたつはあるでしょう? それを言わなかったからといって貴女はわたしが嫌うかもしれないと思っていることに対して怒っているんだから!」
 そこまで言うと、キャロラインは息を吐き、今度は優しい口調で続けた。
「《《彼ら》》っていうことは、人攫いは二人以上いたってことよね」
「二人組の男性だったわ」
 メレディスが静かに頷けば――。
「たったひとりで怖かったわよね」
 キャロラインがメレディスの手を握った。当時のことを思い出したメレディスの体は拒否反応を起こして指先が冷たくなっている。キャロラインの手のぬくもりが現実へ引き戻してくれた。

「ねぇ、メレディス。不安なことで話したくなったら何でも言って? 一緒に考えましょう? それで話したくないことは無理に話さなくてもいいの。友達ってそういうものでしょう?」

「……ありがとう」
 キャロラインの言葉が胸を打ち、目頭が熱くなる。視界が滲んでうまく彼女を見ることができない。メレディスは目尻を指先で拭った。

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