今宵は天使と輪舞曲を。
それに僅かな光や音に敏感になってもいた。
対する彼は待ちわびていたヘルミナにお預けをくらい、ほんの少し不機嫌になったが、「はい、お姫様」と頷き、額に口づけを落とすと窓に手を伸ばした。
しかし、それっきり彼が動く気配はない。何かあったのだろうか。
「どうしたの?」
ヘルミナが尋ねると、彼はカーテンを閉めて放り投げた服を手にした。表情は元の顰め面に戻っている。
「――着けられたな」
はじめ、彼が何を言っているのか分からなかった。ベッドの上で放心状態のヘルミナを見下ろした。それからはだけた衣服の前ボタンを止めると彼女の手を取り、階段を駆け下りる。掴まれた手首はひどく痛む。それだけ彼は焦っていた。
「すぐにやって来る連れを丁重にもてなしてくれ」
オーナーらしき人物にコインをいくらか渡すのと同時に彼は早口でそう言うと、裏口へと向かった。
「待って、早いわ」
大股で歩く彼の速度は女性の足では敵わない。ヘルミナが息を荒げたままそう口にすると、彼は舌打ちをした。
今までにはなかった対応に、ヘルミナは少し怖じ気づいたものの、彼の後に何とかついていく。どれくらい歩いただろう。ようやく泊まれそうな宿を見つけた彼は受付を済ませると部屋に入るなり乱暴にベッドへと放り投げられた。真上にいる彼は鬼のような形相をしている。
「くそ! もう嗅ぎつけやがった! 探偵に着けられただろう! だから手紙にもあれほど注意しろといっただろう!」
乱暴に衣服を放り投げ、そう言った彼の顔は血の気で真っ赤に染まっている。