今宵は天使と輪舞曲を。
§ 05***黒煙。
馬車を走らせること三〇分ほど。探偵は、緑が深くなったこの近辺に、ルイス・ピッチャーが別荘を持っていることを割り当てた。おそらく、メレディスは彼とそこにいるに違いない。
メレディスのものと思しきエプロンが落ちていたあの小屋で何が起きていたのかもあらかたは想像がつく。ヘルミナは屋敷の中でメレディスひとりになった頃合いでルイスが待つ小屋へ誘い出し、そのまま逃亡したのだろう。馬丁に当たり散らしていたあたりから察するに、ヘルミナはおそらく、ルイスに言いくるめられ、利用されていたのかもしれない。用事が終わったから捨てられたのだ。
ルイスがメレディスを攫ったのはひとえに、爵位欲しさ。といったところだろうか。奴は金の亡者だ。両親に先立たれ、孤独になった不幸な女性メレディスを娶れば記者たちがこぞってルイス・ピッチャーに注目する。そうなれば、奴は自分の身を犠牲にして天涯孤独な女性を救ったヒーローという肩書きができる。何も知らない世間は奴を持ち上げ、王は爵位を与えるだろう。だからルイスは人を雇ってメレディスを攫おうとしたのだ。そしてもしかすると、自分が崖から落下しそうになったあれも奴が仕組んだことだったのかもしれない。メレディスにプロポーズした自分が邪魔で、事故に見せかけて命を奪おうと算段したのかもしれない。そうしてふたたび孤独になった彼女を手に入れようとしたのだ。