今宵は天使と輪舞曲を。
 
メレディスはなけなしの力を振り絞り、カーテンの裾を掴んで引っ張った。するとカーテンの上に置いてあったアルコールランプが転がり引火し、オレンジ色の炎が現れる。炎はあっという間に小さな小指くらいの大きさから酸素を含んで見る見る大きく広がっていった。

 焦げ付く匂いを感じ取ったルイスは頭上の炎を目にした瞬間、メレディスを放って一目散に逃げ出した。
 あんなにメレディスに執着していたのに結果はこの様。結局彼は自分が一番なのだ。

 メレディスは何度も頬に手のひらを打ち付けられたことで軽い脳しんとうを起こし、目眩があった。

 うまく立ち上がることができない。

 ベッドのすぐ隣では炎がぱちぱちと音を立て、ツンとした焼ける匂いがメレディスの嗅覚を狂わせる。薄ぼんやりとした視界の端では黒煙がちらついて見える。
 何とか起き上がろうと体に力を入れようと試みるものの、やはり力が入らない。
 自分はこのまま焼け死んでしまうのだろう。
 それでもルイスの思うようにさせてやらなかったことは自分を褒めてやりたい。
 自分は両親の元に逝けるだろうか。それとも自分がしでかしたこれは神の意志に背くことになるだろうか。
 悔やまれるのは、最後に一度でも良いからラファエルの姿を見たかったことだ。
 メレディスは起き上がることもできないまま、炎の中で意識を手放した。



《運命の男性・完》
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