今宵は天使と輪舞曲を。

 この建物の中にメレディスがいるかもしれない。ならば一刻も早く彼女をこの炎の渦の中から救い出さなくてはならないのだ。

 ラファエルは給水ポンプを動かし、井戸の水を汲み上げると頭から引っ被ると、そのまま屋敷の玄関へ走る。
 室内へと繋がる扉は幸いに開いている。ルイスが彼女を置いて逃げたのかも知れないと思えば、ますますメレディスを失うことへの恐怖心が増す。もしかすると、万が一にでも彼女は無事に逃げ切れているかもしれない。そういう結末を想像しようとするのに、焦燥感が否定する。
 ラファエルは炎の中に入った。

 背後では自分を呼ぶ探偵の声が聞こえたような気がしたが、ラファエルは足を止める気はなかった。
「メレディス!」
 中は灼熱だ。煙で何も見えず、どこに彼女がいるのかも分からない。それでもラファエルは炎の煙に咽せながら、メレディスの名を呼び続ける。

「メレディス、いるのかい? 返事をしてくれ!!」
 ――頼むから……。

 中は灼熱の地獄を思わせる。息を吸うだけでも喉が焼けるように熱い。彼女の名を呼びながらこの炎の中を移動するなんて自殺行為でもある。けれどもラファエルは叫び続けることでしか彼女を失う恐怖心を抑えることができなかった。

 水で湿らせた袖で鼻と口を覆いながら、どう向かえば良いかも分からないまま、足だけを動かし続けた。

 いったいどれほどの時間が過ぎただろう。ほんの数秒単位でも炎の勢いは増す。視界が悪い上に炎の勢いと火が呼ぶ風の轟々たる音で彼女の声を聞き取ることもできない。


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