今宵は天使と輪舞曲を。
どうかあの一筋の煙とメレディスが関係していないように。
ただひたすらそれのみを信じ、願いながら足早に進み続ける。
けれども彼のそんな心情とは裏腹に、どうも彼女があの中にいるような気がしてならないのだ。
ラファエルが煙が上がっている方向を目指して進めば進むほどに、やがて火の粉が舞い始めていることに気づいている。同時に建物が焼けるような焦げ臭い匂いも強くなってきていた。
今はまだ陽が高い。とはいえ、こうも緑の深い木に囲まれていると薄暗い夜を思わせる――はずだった。本来ならば。
しかし、そこだけは違った。
ぱちぱちと嫌な音を立てて建物が燃えている姿を目の当たりにしたラファエルは絶句した。
紅蓮の炎がうねりを上げて空に向かって立ち込めている。
「これは、なんと!」
間もなくして探偵も追いついた。彼は目の前の光景に絶句していた。彼の反応から察するに、ルイスの別荘がどこにあるのかも聞かずとも間違いはなさそうだ。
メレディスがこの屋敷にいるかもしれない。
一抹の不安がやがて確信へと変化していく。
彼女がこの燃え盛る炎の中、ひとりで苦しんでいるのかと思えば全身から血の気が引いていく。
頭の中は真っ白なはずなのに、体がひとりでに動きはじめた。その意思はただ、彼女を助けたいと願う一心だった。
自分が何をしなければならないのかを考える暇もなく、彼は目を凝らし、給水できる井戸を探し当てた。
「ラファエル、何をするつもりですか!?」
探偵が尋ねるが、ラファエルに答える暇はなかった。