今宵は天使と輪舞曲を。
§ 07***ゆめのあと。
何やら外が騒がしい。男性と女性が言い合う声が何処からともなく聞こえてきていた。メレディスは目を開けた。
「メレディス、目が覚めたの?」
アンバー色の瞳が潤んでいる。
「わたし、いったい……」
思うように声が出せない。メレディスは自分の声が掠れている。彼女は喉を押さえた。
ここはブラフマン家滞在で借りている、グリーンをベースにしたいつもの落ち着いた部屋。朝の白い光と共に窓を通り抜けるそよ風も、穏やかな空間は何ひとつ代わらない。
それなのに、メレディス本人だけ何かが違う。メレディス自身の異変に違和感を感じずにいられない。
そんな彼女を余所に、けれどもキャロラインはベッドに寄りかかり、とても嬉しそうに口元を綻ばせていた。
「貴女はこの一週間、ずっと眠っていたのよ。肺に負担がかかっていると思うの、声が戻るのはもう少し先かしら。でも貴女が無事で良かった……」
半ば困惑気味なメレディスに、彼女はそっと告げると涙の雫が浮かぶ目尻を人差し指で拭った。それからメレディスを励ますかのように手の甲を優しく叩いた。
――眠る? いったいどういうことだろう。
メレディスは小首を傾げれば、同時に頬がひりつくのを感じた。ほんの少し手で触れてみれば、頬はほんの少し腫れているようだ。痛みを感じて身を強張らせた。そこでメレディスの脳裏に向かって空白だった記憶がひと息に流れ込んできた。
メレディスは自分がヘルミナに呼び出されてルイス・ピッチャーに攫われたこと。