今宵は天使と輪舞曲を。
そして壁際にいるこの女性もまた、ラファエルと同じような考え方をしているのではないかと思った。――少なくともラファエルの目には、彼女が他人を蹴落としてまで成り上がろうとするようには思えなかった。
現にキャロラインを目にした時の彼女の視線はとても柔らかで、あたたかみさえも感じた。ラファエルの第六感ともいえる部分が彼女の性格を好んでいる。
彼女とはたった数分前に出会ったばかりだ。しかしこれほどまで女性に心を掻きたてられたことなんて一度もなかった。
女性への苦手意識があるラファエルがこうも好感を抱いているのに、彼女が自身を毛嫌いしている理由がまったく分からない。
とにかく、彼女の容姿についての件は考え方を改めさせなければならない。まだ出会ったばかりだが、とにかく彼女の思い込みについて話し合う必要がある。
ラファエルが口を開いたその時、女性独特の癪に触る甲高い声が微かに聞こえた。とたんに彼女が身を固めたのをラファエルは見逃さなかった。
この声の主がいったいどうしたというのだろうか。
ラファエルには彼女が怖じ気づく意味が分からなかったが、この耳障りな声の主が彼女の思い込みを作り出した元凶なのかもしれないことは理解できた。
「ああ、叔母さまが呼んでいるわ」
「いいじゃない放って置けば。屋敷の者に後で貴方を屋敷に送り届けるように言っておくわ」
キャロラインは透かさず口を尖らせた。まだ話し終えていないというように不満げだ。