今宵は天使と輪舞曲を。

 ラファエルもキャロラインの意見に賛成だった。必要なら自分が彼女を屋敷に送ってもいい。そうなれば彼女ともっと話ができるし、何より屋敷の場所も分かるというものだ。

 この女性の身内であるならば立場を理解し、彼女を置いてさっさと立ち去るべきだ。


「いいえ、そうもいかないのよ」

 落胆にも似たため息が赤い唇から漏れる。彼女は静かに首を振って残念そうに答えた。彼女もまたキャロラインとまだ会話を楽しみたいと思っているのだろう。

 この女性はこうして人目につかないよう壁に張りついて立っているものの、実際は社交的な女性なのかもしれない。

 そこでラファエルはこの魅力的な女性についてもうひとつ新たな側面を発見できたことが嬉しいと思えた。

 ラファエルの口元が自然と綻ぶ。
 すると彼女の頬がいっそう赤らみ、ラファエルと視線が重なると直ぐさまねずみ色の目を瞬かせた。

 残念なことに彼女の視線が今もなお声高な声を上げる女性に向くと、ふたたび顔色が曇った。

「姪離れができていないのね」

 キャロラインは眉尻を吊り上げ、不快さを露わにした。彼女の代わりに怒りを露わにしたキャロラインの言葉が彼女の憂鬱で陰湿な顔つきを変えた。口角が上がる。目を細め、いっそう優しく微笑んでみせた。すると彼女の右頬に小さなくぼみが浮かび上がる。

 ああ、彼女にはえくぼがあるのか!

 彼女に関して新たな発見があったことが素直に嬉しい。
 澄ましている時も人形のように美しいと思ったが、笑うとチャーミングになる。

 なんとあたたかな笑みだろう。

 今夜だけでいったい何度、彼女の微笑に見惚れたことか。


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