今宵は天使と輪舞曲を。
まさかとは思うが、ピッチャー卿のような傲慢な男が好みなのだろうか。
ラファエルの胸にふつふつと嫉妬心が込み上げてくる。
ラファエルはミス・トスカの表情を確認するため、姿勢を傾ける。しかし眉間に深い皺を刻ませていたのを目にしたラファエルは、即座に彼女の気持ちを理解した。
「ピッチャー卿、見てのとおり、わたしは他の貴婦人方のような立ち振る舞いができません。そんなわたしに貴方は何をお望みでしょう?」
背筋をぴんと伸ばし、そう言った彼女の声音は今にも消え入りそうなほど小さかったが、同時にしっかりとした口調でもあった。張りのある意志の強さが彼女から感じられる。
威圧的な男性を目の前にしてもけっして怖じ気づくことのない強い意志。メレディス・トスカはけっして叔母に言われるがままに動く臆病者でも、自分の不幸な身の上をただ呪ってばかりいる卑屈屋でもない。彼女の芯の強さを垣間見たラファエルは感嘆した。
「何も望んでなんかいない。君は何もする必要はないんだ。君はただ、ぼくの側に寄り添うだけで十分だ」
ピッチャー卿の地響きにも似た自信に満ちた低音が彼女の頭上から放たれた。
――それはつまり、人形のように佇んでいればいいということだろうか。ピッチャー卿の言葉に、ラファエルは眉を潜めた。