今宵は天使と輪舞曲を。

 色素の薄い金髪と日焼け知らずの透明な肌は瑞々しく光輝き、彼女のもつ繊細な性格と優雅な立ち振る舞いですべての男性を魅了した。そして兄もまた、そんな彼女に惹かれたのだ。

 二人は何度も逢瀬を重ね、その度に愛を育んだ。やがて寝台を共にして夫婦となり、一人娘のメレディスが生まれた。

 三人は親子仲睦まじく過ごしていたが、四年前、トスカ家に暗雲が立ち込めた。それはいくつもの不運な出来事が重なってできた事故だった。

 ひとつめの不運は、前々日まで三日間にもわたって雨が降り続いたこと。

 ふたつめはトスカ夫妻が茶会に招かれることになった前日に雨が止み、天候が回復したことだ。

 トスカ夫妻はまだ社交デビューの年齢に満たない当時一四歳だったメレディスを屋敷に残し、茶会に赴いた。

 連日の雨で川かさが増している。

 おかげで二人を乗せた馬車は常に通り慣れた橋を渡ることができず、迂回する羽目になった。

 彼らが選んだ道は緑で生い茂り、視界が悪かったのも彼らが事故に巻き込まれた原因のひとつだ。



 そして、事は起こるべくして起きた。

 先が見えない大きく曲がりくねった道を進む際、突如として馬車の前に大きな猪が横切ったのだ。

 猪は手綱を引いていた馬を驚かせた。

 御者(コーチマン)は慌てて軌道転換しようとするものの、たっぷり雨水を吸い込んだ地面はぬかるんでいる。


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