今宵は天使と輪舞曲を。
車輪が思うように動かない。
それはあっというの出来事だった。
馬車が転倒し、その反動で外に投げ出されたトスカ夫妻は馬車の下敷きになって命を落としたのだ。
メレディスはほんの一瞬で両親を失い、天涯孤独の身になった。
幸か不幸か、身寄りは叔母のエミリアだけだったから、メレディスは必然的にデボネ家に引き取られることになった。
けれども悪いことは連続して起こるものだ。
僅か二年後にエミリアの夫であるグスタフ・デボネが肺炎でこの世を去った。未亡人となってしまった彼女は、困り果てた。
それというのも、デボネ家の領地はすべて夫に任せていたからだ。彼女の夫は仕事熱心で、領民の扱いも上手かった。おかげでエミリアは何不自由なく過ごしていた。
けれども――。夫亡き今、彼女は領地の扱いも人々の扱い方もわからない。
そればかりか彼女には年頃の娘が二人いたし、さらにはお荷物のメレディスがいる。
食費や生活必需品などに加え、二人の娘は結婚適齢期を迎えている。社交パーティーに参加させねばならない。
思わぬ出費が重なり屋敷の運営がにっちもさっちもいかなくなったエミリアは、トスカ夫妻の領地を売って金に換え、デボネ家の領地さえも手放す始末になった。
おまけに使用人の給金もまともに支払えないから、召使いたちはひとり、ふたりと減っていく……。
とうとうこの屋敷には自分と愛娘二人と、それから余所者のメレディスのみになった。