大江戸妖怪物語
「紅蓮神門の眼球を抉り食べるまで、この江戸にいるわ。そしてたくさんの死人を食う。どうする?目玉くれる?」
眸は僕に近づいてきた。冷たい夜風があたりの草木を棚引かせ、音を鳴らす。
「め、目玉はやるもんか。・・・というか、僕の眼球食べたところで、不死身になれるわけ無いだろ!」
「なれるさ、ああ、閻魔の目玉が食いたい・・・」
「僕は閻魔じゃない!お生憎様!別人だ!」
「まあ、いいじゃないの・・・。さあ、お前の眼球を―――――ッ!」
眸の動きが止まる。見ると雪華が眸の左胸を刀で刺していた。肩を上下に揺らす雪華。雪華はかなり怒っている様子だった。
(ひい!顳かみに血管が浮いてる!)
「おい・・・、さっきから偉大なる閻魔王様を呼び捨てで貶しおって・・・。そしてこんな青二才を閻魔王様だと?閻魔王様に対して無礼ではないか」
「青二才・・・あお・・・に・・・さい・・・」
僕は萎れるように元気が奪われていく。青二才でごめんね。一応雪華より年上なんだけどね。ハハハ・・・。悲しいな・・・。
「・・・心臓を一突き・・・か。アハハハハ、面白いことするね、雪女さん」
眸の左胸から鮮血が流れていく。ドピュッと心臓の鼓動と同時に血が吹き出る。しかしこの妖怪はビクともしなかった。
雪華は刀を戻し、そして首を一突きした。おそらく食道・気道あたりを貫通している。
しかし眸は笑ったままだった。
雪華は刀を抜き、距離を置いた。ズチュッという効果音が聞こえた。が、みるみるうちに貫通された刀傷が治癒していく。
おそらく、胸の傷も完治しているだろう。
「私はね・・・死なない」
邪鬼はケタケタ笑う。そして手のひらを前に出した。
「あと、十分だよぉ?それ以内に私を倒して爆弾を解除しないとねぇ!間に合うかなぁ・・・!?アハ、アハアハアハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!」
爪が伸び、先端が尖る。明かりに照らされ光るそれは、まるで人の血に飢えているかのようだった。
「この爪で殺してあげる・・・」
爪の先端をペロリと舐めた眸。唾液がつき、より美しくなめらかに光る。
「おのれッ・・・」
雪華は刀で眸の肩を斬る。しかし、すぐに治ってしまう。
「無駄無駄ァ!」
眸は鋭い爪を上へ振り返る。そして爪が雪華の刀とかち合う。激しい音を立て、その反動で互の体が少しのけぞる。
「死ネバ?!」
雪華と眸は互いに一歩も譲らない。押して、引いての繰り返しだ。
「神門、何をしている。戦え!」
眸の攻撃を交わしながら雪華は僕に向けていった。
「・・・わかってる」
でも、どうしても殺す気になれなかった。アイツは眸を殺した憎いやつなのに。そして贋物の眸なのに。
「殺せねえのかよ!バァカ。私が贋物の眸だってわかってるのにぃ?」
挑戦的に眸は言った。悲しいけど、悲しいけど・・・殺さなきゃダメなんだよね。
「もう一度言おう。はっきり言って、私は贋作だ。偽りの作間眸なの。アンタのことを大事に思っていた作間眸は私が殺したんだよ。バァカ」
口を大きく開けて笑う眸。
「クソっ!」
僕は太刀を抜く。
僕は眸に斬りかかった。しかし、眸は避けることはなかった。生々しい、肉を切り裂く感触。僕は後悔と悲しさで吐き気がした。
僕が傷つけた左腕はボトリと地面に落ちていた。骨もろとも落としたようだ。吐き気がする。
「あはははは」
眸は笑っていた。そして落ちていた腕が浮き上がる。そしてそのまま再度眸にくっついた。
「私、死なないのよって言ったじゃない」
振り向きざまに僕は鋭利な爪の餌食となりかけた。が、ギリギリ躱して炎刀で受けた。
「雪華・・・心臓刺して・・・殺せないってどういうこと?」
「ナニか・・・何かがあるはずだ。探すんだ・・・。不死身の体にある唯一の弱点を」
「弱点なんてねぇよ!死ね!!」
眸は飛びかかる。
「煙火塵!」
僕は手からを出して眸を目くらましにした。
ゲホッ!と咽せる声が聞こえてくる。