大江戸妖怪物語

「まったく・・・お前というやつは・・・」

「あれは・・・鬼婆?山姥じゃなくて?」

「婆にも色々いるんだ」

「ちなみに・・・鬼婆の位は・・・?」

「ふん。下の下の下だ」

雪華は素っ気なく答える。

「いいか?江戸では人間に擬態しているが、郊外に出るとそれなりに妖怪も自らを隠さなくなる。まんまと引っかかりやがって」

僕らはまた道を歩く。
ずっと長く、遠くまで果てしなくつづく道は途切れることなく続いている。

「暗くなってきたな」

歩き続けていたから気づかなかったが、西の方角に沈もうとしていた。

「どうするの?・・・まさかだけど野宿だよね?」

「そのまさかだ。だがしかしテントはある」

閻魔王から頂いた風呂敷のなかからテントを取り出す。

「・・・おや・・・?え・・・?」

雪華は風呂敷包みの中に手を入れて何かを探している。しかしその顔はなぜか青ざめているように感じた。

「ない・・・」

「な、何が・・・?」

雪華は振り返った。

「テントが・・・ない・・・」

「テントならあるじゃん」

僕の目の前には先ほど雪華が取り出したテントがひとつ。

「いや、だから・・・。もうひとつのテントは・・・?」

「へ?」

「・・・」

「・・・」

その瞬間、僕にもわかった。

「まさか、・・・・・・このテントの中に、僕と雪華で・・・・・・寝・・・る?」

恐る恐る聞く。雪華は頭に手を当てた。

「え、閻魔王様・・・。この仕打ちは酷うございます・・・。なにゆえ私がこんなのと同じテントの下、共に朝を迎えなくてはならないのですかッ・・・」

「酷くない?!本人前にしてその発言酷くない?!」

「閻魔王様ァ、きっとこれは手続き上のミスですよね?嗚呼、ミスでなければ、あなた様のような偉大なお方がそんなミスを・・・ッ」

「手続き上のミスのせいにしやがった!・・・?なんだこれ・・・?」

雪華が漁る風呂敷の中に入っている小さな紙。僕はそれを読んでみた。

「なになに?・・・『神門くんへ!ちょっとしたサプライズ仕掛けてみました~!!ちょっとしたいたずらってやつね!困っている神門くんの表情を想像するとご飯が進むね!上野の国いってらっしゃ~い!!   泰山王より♥』」

僕と雪華のあいだに再びの沈黙が流れる。雪華はその紙を奪い取り、手の上で一気に凍らせた。そしてその氷を握りつぶした。

「ヒィッ?!?!」

「泰山王・・・この所業・・・まさに下衆の極み・・・」

「どこかで聞いたセリフ!」

「ちょうどよい・・・あいつとは一回本気で手合わせ願いたいと思っていたとろだ・・・」

「ダメー!絶対ダメー!!」

雪華が念仏を唱えるようにブツブツなにかを言っている。あの、怖いんですけど。



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