大江戸妖怪物語
しばらく歩いていると、大きな音が聞こえてきた。
「何この音?」
また歩いていると茶色い何かが見えた。
「雪華、あれって・・・」
目の前に広がっていたのは濁流だった。茶色く濁った水が、木やらゴミやらいろんなものを上流から下流に流していく。
川幅はとても広く、対岸が遠く見える。増水してるのもあるとおもうが、大迫力だった。
そして僕らの目の前には、木の杭のようなものの残骸。
「ありゃあ、あんたらもこの先に行くのかい?」
後ろから話しかけられる。薪を担いで手拭いを巻いたおじさんがいた。
「ええ、その予定ですが・・・」
「困ったもんだな。昨日の雨で、橋が流されちまったらしい。復旧するまで結構かかると思うぞ」
木の杭の残骸は流された橋の欠片らしい。
「・・・また泊まり?」
僕は雪華の顔色を伺いながら呟いた。
雪華のこめかみがピクリと動いた。
「それは嫌だな・・・」
雪華がつぶやく。そして雪華の右手から出ている冷気。
「え、雪華・・・。人前でだよ?」
「構わんわ。江戸ではないのだから」
雪華の周りに冷気が立ち込める。
「氷河絶悦!」
雪華は右手から凄まじい吹雪を放った。一瞬にして呻る水面に氷の渡り道ができた。
「うひゃあ!あんたすごい力持ってんな!じゃあ、ありがたく渡るとするよ」
「おじさん?!もっとツッコミ入れていいところだよ今のは!」
僕は雪華の腕を引っ張り、おじさんから離す。
「ちょ、妖力を人間の前で使ったら混乱するだろ!」
「江戸ではパニックだろうな。“江戸”ではな。意外と田舎では妖怪は普通だしな」
「じゃあ、僕も使っていいの?」
「化物あつかいされたくなければな」
雪華と僕は氷の橋を渡る。おじさんも一緒に。
「水を凍らせるていうのは、お嬢ちゃんはひょっとして雪女かい?」
「ええ、その通りよ。随分お察しがいいわね。おじさんも妖怪?」
「いやいや、違うよ。俺は昔、雪女に助けられたことがあってさあ」
「雪女に?」
おじさんは顎に手を添えながら話す。
「俺が若かった頃、放浪の旅に出てな。陸奥国あたりの雪山で遭難しちまったんだ。前に以降にも吹雪がひどくて動けないし、かと言って戻るとしても、確実に戻れる保証もない。八方塞がりだったんだ。俺はその場で座り込んだ。その時だった。白い服の女が、立っていた。
女は手から吹雪を出した。俺は殺されると思ったが、女が出した吹雪は黒い雲を吹き飛ばした。雪はやみ、あたりは晴天になった」
「それが・・・雪女・・・?」
「ああ。太陽の光で顔が見えてな。とても美しい、べっぴんさんだったなぁ。だが、あれは雪女に違いないだろう」
おじさんは顔を綻ばせながら話した。
「まさかここでも雪女に助けらるとはな。なんの因果か、すごいこった」
「・・・妖怪みて驚かないおじさんがすごいですよ」
「意外と田舎は妖怪と近いところにいるからな。妖怪っていうのは、親しみやすいのと恐怖を与えるのがいるからややこしいな」
そうこう言っているうちに氷の橋を渡りきった。
「神門、出番だ」
「・・・まさか、この氷を溶かすとかじゃないよね」
「そのまさかだ。長い間塞き止めていると鉄砲水が起こるぞ」
「しょうがないか・・・」
僕は右手から炎を出した。
「紅蓮焔波!!」
僕は巨大な炎を出し、氷の橋を一気に溶かす。するともとの濁流の川に戻った。
「おや、君も妖怪かい?」
「違います!人間だけど、妖力持ってるんです!」
おじさんに誤解をとかせ、僕らはまた歩き始める。
「あんたらはここから何処に行くんだい?」
「僕らは、上野の国に山姥退治に行くんですよ」
「山姥退治・・・。もしかして、それって山奥にある村のことかい?」
「え、ええ。そうですけど」
「俺はそこに住んでるんだよ!奇遇だな。俺の村には山姥伝説があってな」