大江戸妖怪物語
「ってわけだ。美藤さんには感謝すてもしきれねえ!」
話し終えて源一さんはまた泣き出した。涙もろいタイプなのだろうか。
「源一・・・お前はまた泣き出して・・・」
美藤さんは呆れ顔で源一さんを見た。
「・・・そうじゃ、聞いておらんかったが、なぜこの村に来た。救世主とか言っていたが・・・」
「あ、そうなんです。僕ら、山姥を退治に来たんです!イェイ!」
「山姥を・・・倒すだと・・?」
胸をドンと叩き、ドヤ顔をする僕。それを冷たく見る雪華。
「人を喰らう山姥。それは裁判にかけられ、地獄の所業を味わうに相応します。ですから私たちの手で山姥をネジ殺します」
「雪華、めっちゃ物騒!」
源一さんは泣き止んで、美藤さんを見た。
「このふたりは山姥を倒しに江戸からはるばる来てくれたんでぇ。しかも、強ぇのなんのって・・・」
「・・・帰れ」
美藤さんの口から出た言葉は非常に冷たかった。
「美藤さん?・・・でも、倒さなかったら山姥が・・・」
「・・・関係ない他所の人間を犠牲にするわけにはいかぬ。これは村の問題。江戸の人間が関わっていい問題ではない」
冷たく光る眼光。その眼差しに尻込みする。
「お言葉ですが、現段階で三ヶ月に一人生贄として捧げられているということ、これを看過することは私にはできません」
雪華は美藤さんを真っ直ぐ見た。美藤さんも雪華を見つめる。
「下手に山姥を刺激して、交渉を破られたらどうする。それこそ、この村の破滅の時だ」
その様子を見た源一さんが話に入る。
「美藤さん・・・俺からもお願いします。・・・俺だって、山姥を倒したいんでさあ」
源一さんは続けた。
「村人は期待するはずでえ。この二人が山姥を倒すって・・・お願いだ、美藤さん、あなたも、山姥が憎いだろう・・・・・・?」
美藤さんは黙った。何かを考えているのか俯いていた。
「・・・わかった。源一がそこまで言うのなら仕方あるまい。嫌になったり、身に危険を感じたら、すぐに村を出て行ってくれて構わない」
美藤さんはそういうと侍女が出した杯に入った酒をこくりと一口飲んだ。
「山姥を倒す救世主か、・・・おもしろうそうじゃがな。残念だが今日は祝杯をあげる時間がない。明日の夜、改めてお主らが来たことを盛大に祝おうぞ」
(綺麗な人ー・・・。僕、熟女もいけちゃったり?!)
横を見ると雪華が中指を突き立てていた。
「さて、二人共、俺の家に戻ろうか。飯にしよう。それじゃ、美藤さん。また明日」
「ええ、明日の宴で」
僕らは美藤さんの家を後にした。源一さんの家に戻ろうとすると途中で子供達に囲まれた。
「お兄ちゃん達、だあれ?」
わいわいがやがや、あっという間に囲まれてしまい、あわあわしていた。
雪華の方を見ると優しい笑顔で子供に微笑んでいた。
「私たちは江戸から来た。お前らを苦しめる山姥をやっつけに来たのだ」
雪華はポンと子供の頭に手をおいた。