大江戸妖怪物語
「じゃあお兄ちゃんとお姉ちゃんは、正義のヒーローってやつ?」
「そう盛大なものではない。力になれるか定かではないが、尽力しようと思っている」
(雪華のあんなふうに笑えるんだ・・・)
僕は雪華を見つめていた。胸がざわつく。
「名前、なんていうの?」
「僕は紅蓮神門」
「私は雪華」
「じゃあ神門お兄ちゃんに雪華お姉ちゃん!明日あそぼー!!」
「ああ、いいぞ」
わーい、と子供たちは喜びながら去っていった。
「・・・意外だな」
子供たちの後ろ姿を見ながら雪華は呟いた。
「なにが?」
「おもったより痩せていない。私が江戸に来る道中の村には、もっと痩せてる子供がたくさんいたが、ふくよかだ」
確かに子供たちは痩せていなかった。
「まあ・・・村長が村を発展させ、食べ物に困らなくなったからな」
源一さんは言った。
「だからこそ、ああやって笑えるんだ。楽しめるんだ」
源一さんは目を細め、去っていく子供たちを見送った。
「・・・さてと、飯の時間だからな。今日は山菜の天ぷらだ」
「やったー!天ぷら!揚げ物大好き!」
「神門、お前はガキか・・・」
源一さんの家に入り、蝋燭に火を灯す。少々暗いが、テントの中より全然明るい。まあテントと比べること自体失礼なのだろうが・・・。
囲炉裏に大きな鍋をかけ、油を流し込むそして山菜を籠の中から出した。
ジュゥゥ・・・と心地いい音が響く。衣を纏った山菜はカラリとあがり、美味しそうな臭いが広がる。
「熱いうちに食え!」
「いっただきまーす!・・・あちちち!!」
「舌、火傷するから気をつけろ」
注意遅し。
舌がヒリヒリする。
「がっつくのも男ってもんだ。がははは」
源一さんは胡座をかいて大声で笑った。
「それにしても、意外と山村というものも居心地がよいな。江戸では四六時中喧騒の中だが、ここは落ち着く」
雪華は湯呑に入ったお茶をコクりと飲んだ。
「確かになぁ。だが江戸は騒がしいのが華なんじゃねえか?」
囲炉裏に薪を放り込みながら源一さんは話す。
「俺の夢はな、江戸で店を開くことなんだ。ここの村もいいが、江戸に出て一発あてたいんだ。そして、その金でこの村をより住みよい村に変える。それに憧れてるんだ」
囲炉裏の火を見ながら源一さんは笑った。眼球に映る揺らめく火が、その決意を際立てる。
「なーんて夢物語を言っても仕方がないな。まずは山姥を倒さない限り村から出て行くつもりはない。女、子供らを放っておいたら山姥の餌食になっちまう。お前さんたちには、期待している」
食事を終えた源一さんは布団を敷き始めた。
「ごめんな、あまり上質な布団が用意できなくて」
「いえいえ、滅相もございません!」
布団はふかふかだった。昨日のテントとは雲泥の差・・・。
三つ並べられた布団にそれぞれ入る。