大江戸妖怪物語
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「コケコッコー!!!コケコッコー!!!クォッケコッッックォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いででででででででで!!!!!!!!!」
僕の顔面を駆け回る尖っていて重いモノ!やたら僕の顔の上でジャンプする。
「ちょッ、いだいいだいだいいだだだだ!!!!!!」
体を捩らせてなんとか脱出する。傷だらけの顔を抑えつつ、見てみると、茶色い鶏が駆け回っていた。
「ななな、なんで鶏?!」
「神門くん、おはよう」
源一さんを見るとすでに起きていた。
「いやいや、おはようじゃないですってこれ・・・」
「こいつは茶々。可愛いだろ」
どうやらこの茶色い鶏は茶々というらしい。どこかの戦国武将の娘か。
「よ、よろしくな、茶々」
茶々に近づく。しかし、先制攻撃を仕掛けてきたのは茶々だった。
「コケコォォォ!!!」
「痛い痛い!!爪が、茶々の爪がァァァァ!!!!!」
僕に飛びかかってきた茶々。それを必死に振り落とした。
「おっかしいな~。普段はこんなに暴れないんだが・・・」
「ははは、随分なオテンバ娘で・・・」
「茶々はオスだ」
「お前オスかよ!!!!」
茶々は大声をあげた僕を睨む。
「茶々って浅井長政とお市の子供だろ!しかも女だろ!なのに、なんでお前オスって痛!!」
茶々に突かれ僕は源一さんの後ろに隠れた。
「ほら、茶々。やめてやれ」
「コケッコー」
源一さんの言葉は聞くのか、茶々は源一さんに擦り寄った。
「騒がしいぞ、神門」
雪華が目をこすりながら起床。すると茶々は雪華のもとへちょこちょこと進んでいった。
「危ない雪華、そいつは―――!」
しかし茶々は雪華の膝の上に飛び乗るとそこで目を瞑った。
「?!」
「おやおや、可愛いではないか」
雪華は茶々の頭を撫でた。気持ちがいいのか茶々はひっくり返ってお腹を見せて喜んでいた。
「クルッポー・・・」
「それ鳩の鳴き声じゃねぇか!」
「神門、何を鶏相手にムキになっている」
「コケッ」
(あかんムカつくわこの鶏ィィィ!!)
自分でも想像できないほど並々ならぬ怒りが湧き上がり、手から炎がチョビっと出た。チョビっとだけど。
「神門、妖力がコントロールできていないぞ」
「うっ・・・」
「まぁまぁ、お二人さん。これから山菜でも取りに行こうと思ってるんだ。もしよかったら一緒に来るか?」
源一さんは仕事着に着替え大きな籠を背中に背負った。
「こんな朝早くに?」
「あぁ。夜はお前さんたちを歓迎する晩餐会があるだろう?その食材を村長のところだけに頼るわけにはいかないからな」
「わざわざすみません。私たちも同行します」
「雪華?!でも、山には山姥がいるんじゃ・・・」
「山姥なら大丈夫さ。生贄制度があるし、襲われないだろう。・・・多分」
「源一さん、多分ってなんですか多分って」
その様子を見ていた雪華が口をはさむ。
「いちいちやかましいわね。男なら、つべこべ言わず付いてきなさい」
茶々の視線も気になるため、僕も山菜取りに行くことになった。
山の中は思ったほど鬱蒼としていなかった。江戸には山どころか気が生えている所なんて滅多にないし。
「お前さんたちはこういう野草を頼む」
源一さんの手に握られているのは普通の草。それ、食べれんの?と思うくらいそんじょそこらにいっぱい生えている草。というか、雑草。
「これがうまいんだよなー。あ、でも毒の野草はやめてくれ」」
(初心者に毒の有無がわかる気がしないんだけど)
僕はたまたま目の前にあった草に手を伸ばした。
「神門、それ毒草だ」
「へッ?!」
「じゃあこっちのを」
「それも毒草だ」
「毒草塗れじゃねえか!!!」
雪華は近くにある野草を引っこ抜く。
「これは食べれるぞ」
「なんでわかるの・・・」
「勘だな」
何時間か野草摘みを行い、僕らは源一さんの家へと戻った。