大江戸妖怪物語
「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんだー!!」
子供たちが僕と雪華を取り囲んだ。
「ねえねえ、二人って魔法使いなんでしょー?」
「ま、魔法使い・・・?」
「うん!魔法使いって聞いたー」
どうやら僕と雪華が持つ妖力を魔法と勘違いしているのか。いやしかし、魔法と妖力って何が違うんだ?原理的には同じではないのか?
「なんか魔法使ってー!!」
子供たちがせがむ。
「ど、どうする雪華?!」
「・・・まあ、妖力の一つや二つ、出し惜しみすることもない」
「え、ええ・・・?」
「神門、炎を空に向かって放て」
「う、うん?」
訳が分からなかったが僕は空に向かって右手を伸ばした。そして炎を出してそれを空に向けて噴射した。上空で細かい火のことなって地面へ落下してくる。
今度は雪華が空に向かって吹雪を出した。火の粉を氷が包み、幻想的な光景があたりに広がる。
「綺麗ー!!」
子供たちは大喜びだった。
「ランタンが空を飛んでるみたいだ」
源一さんはボオーっとその様子を見ていた。
「ありがとー!お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
「いえいえ~」
「容易いことだ」
子供たちに手を振りその場をあとにした。魔法使いと妖力使いの違いはどうやらわかっていないようだったが・・・。まあ成長すればわかってくれることを信じていよう。
源一さんの家に戻り、畳に座り込む。
(茶々の視線が気になるが・・・)
茶々の鋭い眼光が背中越しに伝わってくる。ここで源一さんと雪華がいなくなったら、真っ先に僕に飛びかかってくるだろう。
「じゃあ、俺は村長のところに山菜を置きに行ってくる」
「私は散歩にでも行ってこようかしら」
(まさかのこのタイミングで?!茶々と僕を二人きりにしてしまうですと?!)
「あ、いや、それは後でいいんじゃ・・・」
「いやいや、早くしないと山菜が萎びてしまうしな」
「私は暇つぶし」
「お、おい!」
「留守番頼むぞ。神門くん、茶々」
「コケッコー」
「え、ちょ、待っ・・・・・・」
目の前でピシャリと閉まる扉。閉まった扉に手を差し伸べようとした僕のこの滑稽な姿。筋肉が硬直する。
なにか、何か邪悪な気配がする・・・。
後ろから何かが・・・!!
恐る恐る振り向くと、茶々の目が黄色く光り、その鶏から溢れるドス黒いオーラが辺りを包む。
「コッケコォォォ!!」
「いってぇぇぇぇ!!!」
強靭な爪で僕を襲撃する茶々。さらにそのまま僕の顔を嘴で突く。
さらに羽をバサバサと前後に羽ばたかせ僕の顔面にビンタをした。
「・・・何しやがんだこの鶏ィィィィ!!!」
普段だったらへっぴり腰の僕だが、鶏相手だと少々強気に出れるらしい。これぞ正真正銘の小心者というのであろう。駄洒落じゃない。
僕は右手に炎をボォッと出した。戦闘態勢になり、腰をかがめて相手の出方を伺う。茶々と僕。その間に無言の沈黙が流れる。何時間にも感じられるその沈黙。先に仕掛けてきたのは茶々だった。
「コケッ!!」
茶々はダッシュで僕の元へ駆け寄り、そのまま高く飛び上がった。そして足蹴りをしようと急降下してきた。
「おらあああああ!!!」
僕は茶々に向かって手を伸ばした。かっこよく描写されているが、戦っている対戦相手は所詮、鶏なのであった。←ここ重要。
「・・・コケッ・・・!コケッ・・・」
勝ったのは僕だった。茶々の脚をつかみ、宙ぶらりん。慌てふためく茶々。鶏相手に勝利したことに満足を覚える僕。
「ふ・・・ふははは。さあどうする?焼き鳥にして食っちまおうか?」
不敵な笑みを浮かべる僕はさぞ醜いだろう。しかも鶏相手に。←ここ重要。
「コケェ・・・」
泣いているような素振りをみせる茶々。
それに構わず喜びをぶちまける僕。
「さあさあどうしようかあー?!焼き鳥意外だと・・・唐揚げ?ソテー?塩焼き??!!」
うひゃひゃと高らかに勝利宣言をする僕。しかしその手に持つ者は、茶色の鶏なのであった。←ここ重要。
左手に火を灯した、その時だった。
「えい」
背後から声が聞こえ、その瞬間体が吹っ飛ばされた。壁に叩きつけられ、頭から床に落下した。
「鶏相手になにを馬鹿なことをしてるのだ」
呆れ顔の雪華がそこにいた。そして茶々は涙目で雪華に擦り寄る。
「まて、雪華。これには理由が・・・」
「おやおや、そんな涙目で・・・。よほど酷い目にあっていたのだろう?可哀想に・・・焼き鳥だのどうのと全く酷いことだ」
雪華に鶏冠の部分を撫でられ、でっぷりした顔で和む茶々。
(おのれ~・・・。あいつ!!!!)
横目でチラリと僕をみた茶々。その目に映るは“敗北者の僕”であった。