大江戸妖怪物語

山姥は震えていた。なんとか立とうとするが、生まれたての小鹿のように足が震えてしまい、立てない。

「ここで・・・ここで死ぬわけには・・・」

しかしその時勝負がついた。

カチャ―――

山姥の前に氷刀があった。

「アタシの負けってことね。認めるわ」

山姥は手に持っていた鉈を地面に捨て、座った。

「さぁ、煮るなり焼くなり好きにしてちょうだいな。アタシは負けたんだから」

しかし雪華はいつものように殺そうとはしなかった。

「ねえ山姥。さっき言っていたことはどういうことだ?」

「さっきって?」

「人を・・・食べたことはないのか?」

山姥は一瞬口を噤んだが、すこしして口を開いた。

「・・・ええ。食べたことはないわ。襲ったこともないし」

「雪華!ぜ、、絶対嘘だって!嘘嘘嘘!!早く砂時計を回収して、村の皆を安心させてあげようよ」

「お前は黙っていろ。これは重要なことだ」

雪華の眼力に、僕は何も言い返せなかった。

「ちょっと話が長くなりそうだから、アタシの家に来てもらっていいかしら」

「家?」

「そこの家よ」

そこには僕と雪華が一夜を明かした、あのボロい家があった。

「あ、あのオンボロ家?」

「オンボロ家とは失礼ね。実際住んでる人がいるのだから」

山姥はフードの下の口を少し尖らせた。

そして家に入り、山姥は僕らを居間に座らせた。

「時間も時間だから、朝ご飯食べてないでしょ。作ってあげるから待ってて」

「山姥、料理なら神門というプロ料理人がいるぞ。せっかくだから作ってもらったらどうだ?」

「せ、雪華?」

「あらそう。じゃあ、ぜひともお願いしようかしら。調味料はあそこの古い戸棚に入ってるから、好きに使ってくださいな」

「うぅ・・・。また僕・・・?」

僕は渋々鍋を手に取って、料理を作り始めた。


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