大江戸妖怪物語
「おそらく・・・500年前になるかしら。応保三年頃、この地には古代から伝わる神社があったの」
「神社?」
「ええ、ここは山が多いでしょ。だから、山を経由して物を運搬したり、旅人が通ったりしていたの。でも、土砂崩れや遭難事故も多発していた・・・。そこで、このあたりの村の人々が、安全を祈願して神社を立てたの。それは千年近く前の話なんだけど・・・、それから500年、神社はそこに建っていた」
「でも・・・今はないんだよね?」
「そうね、今はもうないわ。初め、神社はとても巨大で、村人たちは鼻が高かったのよ。あんなにでかいものを作ったんだ、凄いだろって・・・」
話をする札埜は懐かしそうな顔をした。しかし、悲しい顔にも見えた。
「アタシはその神社で巫女をしていたの」
札埜は手をグッと握った。
「でも、アタシが巫女になって5,6年くらい経ったころかしら。神社は火事にあった」
札埜は俯いた。
「出火原因は、放火。しかも、犯人は神主だった。いや、放火というよりも、焼身自殺を行ったといったほうが正しいのかしら」
「神主さんが?!なんで?!」
「この神社は山奥だ。巨大だが、孤独感を感じていたのだろう。ある日、アタシやほかの巫女、そして神社の関係者たちが会議をする日があったんだ。これは一か月に一回、開かれるんだけど・・・。そこで神主は、自らの体に火を点けた」
「そんな・・・」
「アタシたちにはどうすることもできなかった。火の勢いは増すばかり、そして神主の体から火が神社の布に燃え移った。その瞬間、アタシたちは思ったの。『これはもうダメだ』って。アタシたちは燃え盛る神社から、神具をできるだけ外に出した。そして、目の前で神社はすさまじい音と焦げ臭い匂いを感じながら、巨大な神社は黒く焦げ、崩れた」
札埜は泣きそうな顔をしていたが、話を続ける。
「村人たちの反応も鈍かったんだ。再建の話もあったけど、その頃には鎌倉幕府のおかげで道は整備されてきたし、そして道に迷う人もいなくなった。運搬も容易なものとなっていたし、村人にとって、神社はもう用無しとなっていたの。そして出火原因が神主ってこともあって、批判も強かった。だから、神社はそのまま放置されることになった。アタシ以外の神社関係者は、スゴスゴとここを去り、見知らぬ場所に行った。アタシともうひとりの巫女は行く当てがなかったの」
「な、なんで?」
「アタシともう一人は、ここら辺の村から選ばれた巫女だったんだ。さっきも言ったように、神社に対しての批判がすごかった。だから帰れなくなった。アタシともう一人の巫女は、この山で暮らすことにしたんだ」
自嘲するように笑う札埜。
「それからずっと、この場所で暮らしてきたんだ。アタシと、もう一人の巫女とで。しかし、神通力を持っていたアタシたちが巫女でなくなった以上、その力がアタシたちを変えた、それが山姥だったんだ。巫女崩れの山姥だ」
「巫女崩れの山姥・・・、昔聞いたことがあるわね」