大江戸妖怪物語
「私たちが山姥退治に出かける当日、美藤さん、あなた出て来たわよね。そして石畳の上を歩いた時、カランと心地いい音が響いていたの。あなたの履いている靴は浅沓、それは石のようなものの上を歩くときに音が鳴るの。それが、今鳴らなかったわよね。石畳の上に乗っているのに」
「・・・」
美藤さんは黙った。
「浅沓がならなかったのは、泥がついてるから。美藤さん、なんで山に入ったの?普段、入らないわよね」
「・・・」
「そして、あなたの肩に入った傷・・・それは札埜につけられたものよね。妖怪は自傷行為ができないから、自分でその傷はつけられない。あなたは山姥退治に行くと称して敵対する札埜を殺しに行ったのよね」
美藤さんは黙ったままだった。
「札埜がいると、いつ自分の正体が山姥だとバラされるかわからないから・・・」
「うふふ・・・。だから何?もっと直接的に行ってくれないかしら」
「ええ、じゃあ単刀直入に言うわね。まずは、毒入り料理についてね。あなたは食糧庫に行き、カエンタケを混入させた。食糧庫の権利を持っているあなただったら。近づいて不審に思われないからね。そして、侍女の一人が殺された事件では、おそらく、あなたが外に呼び出したのよね。偉大なる尊重の命令には背けないから」
「ふむふむ、それで?」
美藤さんは笑いながら聞いた。
「じゃあ、あなたの浅沓の裏を見せてくれないかしら。おそらく、山の土がべったりとついているはずよ。この二日間、この村の中にいたのなら土はついていないはず。見せなさい、靴の裏を」
美藤さんはそっぽを向いた。
「・・・もう・・・いい加減にしなさいよ・・・」
口を開いたのは札埜だった。
「あなた・・・同じ山姥として最低だわ。この村の人々を利用して、そして食うなんて!アタシはあなたを許さない。絶対に・・・」
札埜は美藤さんを指差して言った。
「同じ巫女崩れした山姥として、アタシはあなたを倒す」
美藤さんは右手で目を覆った。口は開かれ、ケタケタと笑い声が漏れる。
「・・・・・・バレてしまったら仕方がないな」
美藤さんは僕らを向き直って言った。
「そうじゃ。我は山姥。この村の人間どもを食ってきたのは、他でもないこの我じゃ!」
高らかに美藤さんは叫んだ。目は見開かれ、右腕の袖の中から刀を出した。
「美藤・・・随分あなたも変わってしまった。昔のあなたには戻ることはできないの?」
札埜は美藤さんに鉈を向けた。
「アタシたち、あの神社が燃えてから助け合って生きてきたわ。それなのに、ここで終わってしまうの?」
「我はもう戻れない。進むのみじゃ。確かにお主はかつての友だが、今じゃわけが違う」
紫色の髪を靡かせ、美藤さんは笑った。
「美藤さん、あなたは村を救いに来たのではなく、この村から人間を逃さないようにするために来たのよね。この村の人々は山姥を恐れ、村を捨てようとした。でも、この村から人がいなくなったら、人間を食べれない。だから、あなたは山姥と交渉するという口実をでっち上げて、この村に人間を留まらせようとした」
「それでアタシのところに来たのね。アタシがいると、さっき雪華が言ったように、いつ自分が山姥であることがバラされてもおかしくないから、口封じにアタシを殺そうとしてきた。アタシは鉈で美藤の肩を斬った」