大江戸妖怪物語
「えぇッ!?お、お願いします、離してください!」
「離せと言って話す馬鹿はおらぬぞ。さあ、小娘。自分の顔にその刀で傷をつけろ。深く、醜く血みどろに!」
雪華は無言で冷たくそこに立っていた。
「そうじゃのう・・・、できれば右頬から口元、そして顎を切り裂くか・・・。それとも十字に斬ってもよいぞ。それはお主に任せよう。できるだけ醜く・・・ここは重要なところじゃ」
その間にも僕は左右に振られ続ける。少し目が回ってきた。頭もクラクラする。
そして僕の腕は潰れてやしまいそうだった。
「ひとつ言っておくけど」
「雪華・・・?」
雪華は腰に手を当てて高々と言い放った。
「私の顔とそいつの腕一本というか命と比べたら、私の顔のほうが優先順位は上だ。よって、そいつがどうなろうと関係ない」
「雪華ァァァァ?!美藤さん、今の言葉ナシ、聞かなかったことにして!!!」
「ほぉ?本当に殺るぞ。腕一本と思っていたが、そうか。では命ごとへし折ってやろうかな」
僕の腕が折れそうになる、その時だった。
「札埜!今よ!」
「了解」
ズバッとなにかが斬られる音がして、そして僕の体は地面に打ち付けられた。黒い物質の引き締めはなくなっていた。見るとそこには左肩が欠損した美藤さんがいた。左腕は地面にだらしなく落下していた。骨と思しきものの周りには神経がビチビチと波打っていた。
「う・・・あ゛ッ・・・」
美藤さんは切り落とされた肩の部分を右腕で抑えた。しかし、血は止まることなく流れ続ける。苦痛にゆがむ美藤さんの顔が山姥らしく醜く滲む。
「作戦成功」
「抜群のコンビネーションプレイだったわね、アタシたち」
どうやら、美藤さんの意識が僕と雪華に向いている隙をついて、札埜が背後から近づき腕をその鉈で切り落としたのだった。
「ちょっと、僕を利用したわけ?!」
「利用できるものは悉く利用する。それだけだ」
「ひっでぇ!!」
僕は右腕を抑えつつ、美藤さんから距離と取る。
「こういう緊急事態に備えて、毎日鉈は研いであるわ。アタシ、一応山姥なんでね。そういうところだけ山姥っぽいかしら」
美藤さんはよろよろと歩き、落下した左手から刀を奪い取った。狼狽した目つきで僕らをにらむ。