大江戸妖怪物語
「さあな。あまり関わりたくない相手としか言いようがない」
「雪華に惚れてるんじゃないの?」
「下衆は嫌いだ」
雀陽を下衆という単語で一蹴りした雪華であった。
「木南に蓑を返しに行こうよ」
「そうだな」
僕は雪華と共に、あの水車小屋へと向かった。すると、昨日の吹雪で水量が増したのか、水車の回転が速くなっていた。
「木南、蓑を返しに来たよ」
僕がノックすると、木南は恐る恐る扉を開けた。
「あ、神門さん、わざわざありがとうございます」
木南は僕たちと確認すると小屋から出てきた。
「ごめん、まだあの人たちがこの村にいると思うと怖いから・・・」
「昨日、あいつらに会ったわ。運悪く、同じ民宿」
木南は表情が変わった。すぐに雪華に近づく。
「な、何かされませんでしたか?」
「私たちはなにも。ただ、女将さんの様子が朝起きたら違っていた」
それを聞いた途端、木南の表情が変わった。
「女将さんが?」
「ああ。あの三人組のリーダーの甘野雀羊を崇め奉っていたぞ。それはもう狂信的に」
思い出しても吐き気がする。あの光景。洗脳されているような異常な景色。
「しかも、雪華にめっちゃ惚れてるようだし。なんか『私がこの日本のリーダーになる』とか言ってたけど」
「まさか、あの刃・・・・・・」
木南はふと口から言葉を発した。
「・・・いえ、なんでもないです」
すぐに木南は笑顔に戻った。
「とにかく・・・お二人はこれからどうなさるんです?その民宿にはもう泊まれないですよね・・・」
「多分ね。結構女将さんから睨み効かされちゃったし」
わざとらしく肩を落とす。すると木南の口から意外な言葉が発せられた。
「ここでよければお泊めしますよ。昨日は言えませんでしたが・・・」
「えぇッ?!いいの?!」
「はい。こんな汚い所で申し訳ないですが・・・」
「ううん、そんなことないよ!ありがとう!!」
僕は木南の手を取って、顔を綻ばせ言った。
木南は頬を染めながらしどろもどろに言葉を繰り出す。
「あ、は、はい!ただ、布団とかなくて・・・藁の上に寝る感じで・・・雑魚寝のような感じですが・・・大丈夫ですか?」
「寝るところを提供してくれるだけでありがたいって!」
雪華は水車小屋の中を見回す。
「ここは至極快適な場所だな。暑さを凌げる」
「確かに夏は涼しいですが・・・冬は最悪です。冬の季節になったらものすごく寒いので・・・。普通に凍死する人もいますし」
「私は問題ない。なんていったって、雪女だからな」
「私も寒さに耐性あるんで大丈夫です!よかった!!」
じゃあ、寒さで凍え死ぬ可能性があるのはこの中で僕一人ということになるのか・・・。
そう思うと、なんだか切なく感じてきた。このときほど『冬よ、来るな!』と思ったことはない。