大江戸妖怪物語
「てか、雪華は?」
「雪華さんは暑いのが嫌なそうなので、中で涼んでます」
「あいつ・・・。僕の前では暑いのが苦手とか弱み見せないのに・・・」
ちょっとムカついた。雪華は僕の前では弱音を吐かない。だけど、僕の知らない雪華は、弱いのかもしれない。何を理由にそこまで強がるのかはわからないけど、少し悲しい気がした。
「あのッ・・・、神門さん・・・」
木南は少し間を置いてから僕の名前を呼んだ。
「雪華さんとは・・・どういう関係なんですか?あの・・・すごい親密そうで・・・もしかしたら、お・・・お付き合いとか・・・・・・」
「はぁッ?!?!」
僕の声が辺りに木霊する。
「あうッ!す、すみません!!余計なことを聞いてしまって・・・」
「あッ、いやいや・・・。怒ってないから大丈夫だよ・・・」
どうやら僕の大声にビビってしまったらしく、木南は体を小さくして震えている。
「お付き合い・・・はしてないよ。付き合ってるなんて言ったら、雪華に氷漬けにされて殺されそうだし」
「は、はぁ・・・・・・」
「まぁ、邪鬼退治をする仲間みたいなものだよ」
「じゃ、じゃあ・・・」
木南は意を決したように目を見開いた。
「神門さんは、い、今・・・フリーってことですよね??」
「あー・・・、まあそうなるのかな。そもそも、現在フリーとかじゃなくて、生まれた年が彼女いない歴だから、万年フリーって感じだけども」
「そ・・・それなら、私と付き・・・」
「木南ぁぁぁぁぁぁ!!!!!ヒャッホ――――――ッ!!!!!!」
木南の言葉を遮るように、聞こえてくる大声。僕が立ち上がり見てみると、息を切らした女の子が袋を持って立っていた。
「ほら、梅干し持ってきたよ!!って、え・・・?」
その女の子は僕の姿を見るなり、目を丸くさせた。おそらく、木南の友人だと思うが・・・。まあ、友人が上半身裸の男と語らってたら、それは驚くよな・・・。
「うっそ・・・、イッケメーン!!!」
その女の子は叫ぶなり、僕に抱きついてきた。
「ちょ・・・梅ちゃん?!」
木南は慌てた様子で、僕にしがみつく女の子を引きはがした。
どうやら目を丸くさせた原因は、僕が好みのタイプだったかららしい・・・。
「いっやー!ごめんごめん!!」
見た目は、まさに元気っ娘って感じ。
「いやいや・・・。つい、イケメンがいたから飛びついてしまった・・・」
「うん・・・。『つい』で飛びつかないほうがいいと思うよ・・・」
僕は常識から逸した彼女の思考に少し突っ込まざるを得なかった。
「この子は酒本黄梅。それで・・・」
「もー、木南ってば!!自己紹介なら私がするって!!紹介にあったように、アタシの名前は酒本黄梅!!通称、『梅』って呼ばれてまーすッ!!」
「僕の名前は紅蓮神門。江戸で刃派っていう刀屋を営んでいるんだ」
「え?!江戸の人?!やーん、もうスペック高すぎ!!」
体を昆布のようにくねらせながら恍惚の表情に浸る黄梅。
「んで?!ちなみに?!年齢はおいくつで?!?!」
目をキラキラさせながら黄梅は僕の顔を覗き込む。
「あ・・・、一応二十一歳だけど・・・」
「二十一!!アタシが今、十八だから・・・。ひー、ふー、みー・・・・。うん、年齢的にはピッタリってところかしらん?」
「いや、ピッタリとかわからないから!」
指を折り曲げながら年齢差を確認する。
「木南。神門さんはフリーかしら?!」
「う、うん。彼女いないって・・・」
「おっけー。わかったわ」
黄梅は僕のほうに体を向け、僕の手を両手で握った。
「アタシと結婚しようか!」
「なんで出会って一分でそうなる!!」
「細かいことは気にしないでいいじゃない。運命よ、きっと」
「出会って一分で運命なんてわかるかい!!」
「審美眼」
「その審美眼、絶対あてにならないからね?!?!」
黄梅は常にハイテンションで、僕に告白してくる。