大江戸妖怪物語
「おやおや、当たりかの。ワシは昔、陸奥国にいたことがあってな・・・。アンタによく似た色白の銀髪の女性を見たことがある」
「・・・それは母のことですか?」
「さあな。ワシはアンタのかあさんかどうかは知らないからの」
「そうですよね。失礼しました。私は雪華と申します。邪鬼退治を命ぜられ、陸奥国より遥々江戸へ。そして山姥退治をするべく上野国に行き、帰る途中にこの地に寄った所存でございます」
「僕は紅蓮神門です!その・・・妖力持ってます・・・」
「妖力持ちの人間か・・・・・・」
勝常さんは僕の顔をじっとみつめてきた。
「あの・・・なにか・・・?」
「アンタはすごい力を秘めているな」
「へ?」
勝常さんはそれについては何も話してこなかった。
「それで、この村に立ち寄ったのは・・・異常気象のことかな?」
勝常さんはまるで僕らの心を見透かしたように次々と言い当ててくる。
勝常さんはふと立ち上がり、手招きした。
僕たちは靴を履いて外に出る。そして寺の裏に案内された。
「でかッ・・・・・・」
視界いっぱいに広がったのは、少し淀んだ巨大な沼だった。
「この沼は一体・・・?」
「龍の沼じゃよ」
「龍の・・・沼?」
「そこの椅子に座るがよい」
僕は勝常さんに言われて近くの石に腰掛けた。雪華と黄梅、そして木南も一緒に座る。
「ここには龍が住んでいる」
ヒューッと風が音を立てる。それは僕の頬を撫でて行った。
「あそこに祠があるじゃろ」
勝常さんが指差す先の小さな小島・・・。そこには今にも崩れそうな祠があった。
「あれはこの地の龍を祀ったものじゃ。しかし・・・一か月も前じゃろうか、何者かによってあの祠が破壊されたじゃ」
「祠が破壊された・・・?!」
「ああ。それからじゃ、この異常気象が始まったのが。何人も直そうと船で小島に向かおうとするのだが、・・・・・・だれも戻ってくるものはいなかった。それどころか、死体すら浮き上がってこない」
「死体すら・・・?!」
僕は池へと目を向けた。しかし、死体どころか龍なんているのかと思うくらいの静けさである。龍に食われたのか、殺されたのかわからないが、いったい彼らはどこに消えてしまったのか。