ビッグマンズ
 暗黙の了解で、味覚と嗅覚の戻りきらない佐々川が、ストーブ前に立つことはほとんど無く、
いつも調理場の端の方で、一人朝食の仕込みをしている。


 阿部がオムレツ専用のフライパンを全開にしたストーブの火にかけながら私に言う。
「あんた、私が失敗すればいいと思ってるでしょ!?ダメよ!こういうのは「気」が大事なんだからね!  しっかり「気」を送っててちょうだいよ!」


 そう言われたが、自分のポジションにもオーダーが入っていた私は、もちろん阿部に「気」を送っている暇などなく、さっさとその場を後にした。

 ホテルでコックをやるなら、オムレツは必須だ。みんな何百個という卵を使って、死ぬほど猛練習する。

 
 ストーブの火を全開にし、思い切り熱くしたフライパンにバターを入れる。バターが溶けて、
全体になじんだら、溶いて味をつけておいた卵を入れる。

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