空耳此方-ソラミミコナタ-
炯斗は血相を変えて言乃を背負う透に駆け寄る。
「こと……どうしたんだよ……」
「命に別状はなさそうだ。たまに意識が戻ったが、その時にははっきりしておったよ」
透は言乃を下ろし、炯斗が代わりに支えた。
朋恵も言乃の肌を触って確かめ頷く。
「…ええ、休ませて上げるのが先決ね。部屋は?」
「昨日泊まらせて頂いた部屋がそのままなはずです……鍵もここに」
恵が透の荷物を下ろして、鍵を見せた。
それを見取めると炯斗は言乃を抱き上げ、恵に向き直る。
恵は何だか顔が熱くなるような気がした。
「恵、先に部屋に行って、ドア開けといて!」
「う、うん!」
恵は階段に向かう。
こんな時でなければじっと見ていたい光景なのだが、今は背けられることが少し有難かった。
不意に、朋恵の舌打ちが響いた。
「全く……何でここはエレベーターがないのよ…」
見渡せば、確かにどこにもない。
こっちにあるという表示すらない。
しかし、今はそれどころではない。
恵は構わず階段を上がった。