空耳此方-ソラミミコナタ-

「透くんは僕が支えるよ」

そういって透のわきの下に入って立ち上がるのを助ける。
玲子も手をだそうとしたが、「いらない」という克己にやや厳しい言葉が飛び、引っ込めた。

「どうした?」

窺うように克己を覗きこむ透から逃げるようにして、小さく首を振る。
透が助けを求めるように玲子に視線を送るが、玲子も肩をすくめる。

克己はただキッと睨んで前に進んだ。
大きく踏み出したので、透が慌てたがお構いなし。

突然の不機嫌さの理由は、自分にも何なんだかわからなかった。
そしてそのこともさらに克己を腹立たしくさせた。


「ここだよ」

「おお、思ったより中は広いんだね」

玲子の声が反響して大きく響いた。

「へぇー、いいな。ここで一晩明かす訳か。いい思い出が出来るな」

透がしみじみ言うと克己はハッと顔を上げた。
そうだ。こんなにゆっくり透と過ごせるのはこれが最後かも知れないのだ。
働きに出たらこんな風に遊ぶことなど難しいに決まってる。

そしてそれは────透と同い年の玲子にも言えることなのだ。

そう思うと、寂しさが一気にあふれ出てきた。
こんなときに、僕はなんでこう拗ねているんだか……

顔を上げて、努めて明るい声色で口を開いた。

「ねぇ。せっかくだからさ、ここに何か残そうよ! 記念……思い出作りにさ!」

「そうね、いいかもしれない」

玲子が同意すると、克己はパッと輝いた。

「何かって何にする? あんまりいろいろは出来ないぞ」

そういって透は視線を落とす。
もう観念したのか、素直に痛いということを認めるらしい。

「うーん…」

三人は一様に考えこむ。

そして

「そうだ! いいこと思いついた!」


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