片戀
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確かめてみたかったけれど、そんなことはとても怖くて出来なくて、かわりに、私はずっと幸せですよ、と言った。

それからはお互い何も喋らずに私の家へと続く道を進んだ。静かな午後で、会話はなくとも、決して重い空気ではなかった。彼の気遣いが端々に感じられる帰り道。
今この瞬間、後ろに居るのが拓だったらな、と、私が思っているのを知ったら、彼はどう思うだろうか。きっと良くは思われない。そう分かっていても思ってしまうのは、彼が拓に似すぎているから。

そして、私の心は、拓の中に存在するから。今までも。そして、これからもずっと。







*****





着きましたよ、と云われて現実に引き戻される。私は彼に礼を言って、玄関に入る。
そのまま車椅子から降りようとすると、彼に抱き上げられてしまった。一応、歩けることには歩けますから大丈夫です、と言っても降ろしてはもらえず、そのままリビングまで連れていかれた。
椅子に降ろしてもらってからごめんなさい、と告げると、僕がそうしたくてやったことですから、謝らないでください、と云われた。

それじゃあ、と、帰ろうと玄関の方へ歩を進める彼を見送ろうとしたら、急に眩暈に襲われた。せめて、彼が帰るまではもってほしかったけれど、そんな私の思いとは裏腹に、視界はどんどん狭くなっていく。椅子から落ちてしまった音で、彼にも異変に気づかれてしまったようで、一度は玄関へと向けられていた進行方向を、再び私の方へ戻すことになってしまったようだった。

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