短編集
鼻と鼻がぶつかりそうなくらいまで近づいてきて、とっさに顔を後ろへ引く。しかしなぜか彼女の顔もそのまま、俺の顔につられるかのようについてくる。俺はとっさに立つこともできず、尻餅をついてしまう。

「きゃ!」

彼女はなぜかバランスを崩していたらしく、短い悲鳴をあげてベッドから転げ落ちてくる。俺をめがけて。

「うおっ!?」

あまりにも突然のことだったので、反射で体は動いたが、間にあわず、彼女が俺の上に落ちた。彼女の頭は俺の胸へ、小柄な体は彼女の両腕をはさんで俺の上へ、足は俺の両足の間へと。そして俺の右手は彼女の頭を、左手は彼女の腰へまわしてして抱きしめている状況。

このとき上にウィンドブレイカーというユニフォームの上から羽織れるジャージのようなものを着てきていてよかったと感じる。

「あたたー」

と彼女が俺の体の上でもぞもぞと動き始める。このとき何か違和感を感じたが、それよりも前に女の子特有の甘い香りが漂ってくる。この匂いは男子にとって、ある意味凶器でもある。この匂いはとにかくまずい。この状況もだが。

「あ、あ、あ」
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