短編集
「もうどうしょうもないことだけどね。それでね、少しお願いがあるんだけど」
と桜はにっと笑って俺に言ってきた。少し照れくさそうに。
「その・・・毎日私のとこに来てくれない・・・かな・・?」
「え?」
暗い話から一転、何やら意味ありげな1こと言われ、顔が熱くなる。
「あ、や!そ、そういう意味じゃなくて!勉強とか学校の話とか聞きたいなぁって」
「そ、そういうことな!あぁ構わんよ!ただ俺部活とかで遅くなるぜ?」
「気にしないでいいよどうせ私はいつでもここにしか居れないから。ね、いいよねお母さん」
と桜のお母さんに話を振ると、お母さんは少し困ったような笑みを浮かべ、
「確かにうれしいことだけど、迷惑なんじゃないですか?そんな部活で疲れた後にわざわざ来てもらうのは」
「いえいえ、そんなことないですよ家もそんな遠くないですし」
「じゃぁお願いします」
その言葉を聞いた途端桜の表情がぱぁっと明るくなり、満開の笑顔を俺に向けた。俺はその顔を直視できず、逸らしてしまう。そして部活へ早く戻らないといけないので話を切る。
「はい。あ、じゃぁすいませんが今日はここら辺で・・・あ!」
「ん?どうしたの?」
「窓・・割れちゃってますよね・・・すぐに弁償できないんでいつか・・返します」
そう思い出してすぐに謝る。するとお母さんが笑い始めた。
「いいですよ。こちらもこれからお世話になるのでそれでナシです」
「ありがとうございます」
やはりいいお母さんだなと心から思えるような人だ。
「それではスイマセンがそろそろ1度部活のほうに戻らないといけないので」
「うん、今日終わったら来れる?」
「こら、そんなすぐ呼ばないの!」
「あはは、構いませんよ。今日の帰りに寄ります」
そう言い残して部屋を後にする。するとお母さんが見送りに来てくれるのか一緒についてきた。玄関まで行き靴を履いたところで、
「本当にいいんですか?迷惑じゃないですか?」
「いいですよ、これもなんかの縁です。では帰りに寄りますね」
「すいませんお願いします」
もう謝りに来たのか感謝されに来たのかわからなくなってきた。玄関を出て練習試合が行われているグラウンドへ向かう。
なんであんな毎日通うと約束したのか自分でも不思議だった。ただ言えることは桜の事が気になるからと、あの笑顔が頭の中に張り付いて離れないことだろう。