crocus
未だに小さく背を丸めて照れている若葉になんとなく尋ねてみる。

「俺はあの…雷の日。どうすれば良かったのかな?どうすれば健太に辛い思いさせずに済んだのかな?」

そんな困らせる問いかけに、若葉の表情は一気に真剣になった。そして少し考えてから、口を開いた。

「その日、躊躇わず健太さんに向かって走ること、それが琢磨くんにとって唯一無二の最善の策だったと思います」

間違ってない、そんな風にはっきり言われるとは思っていなかった。若葉は優しく笑ってイキイキと言う。

「無意識の内に心が体を動かしたんです、きっと!」

それに…と、続ける若葉はほんのり頬を染めて遠くを見ながら言う。

「そうした動きを琢磨くんがすること知り尽くして、前もって行動していたのは健太さんですよね。…それって琢磨くんのこと信頼していたから出来ることだなぁって、素敵な関係だなぁって思います」

「そ、そうか…?」

予測したように健太は川で待ち伏せて、公園でも待って。見つけること分かってて、絆の石も置いた。

俺が分かりやすいだけかもしれねぇけど、あいつ…って、なんで俺が照れてんだよ。

琢磨は最後に見た健太の顔を浮かべながら思った。

今、何してんのかな。元気にしてんのかな。

そう思えば、健太の笑った顔や、怒ってる顔、心配そうな顔、不服そうな顔が次々と過った。

そのことになんだか不思議と笑えてきた。確かにあの日あの時あの場所に、琢磨と健太はいた。

なんだかもう、それだけで充分じゃねぇかなんて納得してしまった。

今はただ健太が元気に笑って幸せでいてくれたらいいなと、素直に願える琢磨がいた。
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