crocus

へたが濃い緑色で跳ねているもの。へたの周りまで赤くなっていて、種を覆うくらい膨れているもの。

これが誠吾くんが教えてくれたおいしいいちごの見分け方。実際に1粒食べてみれば、驚くほどみずみずしくて甘かった。

香りを楽しみながら、クロッカスで今日、明日で使う分だけを慎重に優しく摘み取っていく。

普段使いの分やクリスマス時期の分など、季節に合わせた数量で配送してくれているのだけど、こうして毎年4月になると、直接手に取っていちごの出来を確認するために足を運んでいるらしい。

もっとも、しっかりとした信頼関係で成り立っているから、疑っている訳じゃないよ、と強調していた誠吾くん。

きっと誠吾くんがここに来る理由は、生産者さんの顔を見て直接お礼を言いたいからだと思う。

『こんなにおいしいいちごを育ててくれてありがとうございます』

『これからもよろしくお願いします』

そんな思いは、まるでお嫁さんのお父さんに挨拶をする旦那さんみたいだ。

ただでさえおいしいいちごが、ここから誠吾くんの手によって更においしくなって、お客さんの口に運ばれている。

朝は早かったけれど、こうして実際、原点を目で見て過程を知れただけでも来てよかったと思う。

程よい収穫量になったか確認してもらいたくて、誠吾くんを探すと、ずっと奥の方でいちごの苗に向かったまま止まっていた。

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