crocus
近づいてみれば摘んでは食べ、摘んでは食べを繰り返していて、誠吾くんのカゴの中はほとんど空っぽだった。
「んふふ、誠吾くん。ちょっと食べすぎじゃない?」
口を絶え間なく動かしたまま、こちらを見た誠吾くんは、真っ赤になっていた口周りをジュルリと拭ってから真剣な眼差しで言った。
「若葉ちゃん!もったいないよー!取引額とは、別でお金を払えばいいんだから、時間許すまで食べよーよ。摘みたてフレッシュキュアベリーだよー?はい、アーン……」
最後の理由には疑問符が浮んだけれど、『あー』と開いた口につられて若葉も口をパカッと開いた。
誠吾くんは嬉しそうにまた摘んでは食べ始めた。でも時々、その手は広がるいちごの白い花びらをむしっている。
「え?せっかく咲いているのに……」
「んー?あー……そうだね。少しかわいそうなんだけど……こうして花びら部分だけを取り除くと、これから実る果実に栄養がいきやすいんだって」