crocus
「そうなんだ!……ごめんね?何も知らないのにひどいよー、みたいな言い方しちゃってて」
ニシシっと笑いかけてくれた誠吾くんはブンブンと頭を振った。
「いいのいいの!だってね、ボクも最初にちえりさんがむしってる姿見て、嫁姑戦争で溜まったストレスのはけ口かと思ったんだよねー」
ちえりさんが、きっとここにいたら制裁を受けているだろうけど、なんだか同じ感性だったことが嬉しくて、声に出して笑ってしまった。
誠吾くんを習ってもっと楽しもうと、苗をゆったりとした気持ちで眺めてみれば、2粒がくっついたような……まるでハート型に見える薄い黄緑色の果実を見つけた。摘みごろではないのが残念だ。
いちごの苗を観察すると、前に本で読んだ内容をふと思い出し、大きく納得した。
「こうやって親株から、ひょろひょろーってツルを伸ばして、たくさんの実を結ぶ様子を家族の繁栄に例えて、いちごの花言葉は『幸福な家庭』っていうんだって」
「ふぉふぇー……!」
「ふふっ!確かにこうして見ると、親に愛情を注がれているから、だんだん甘く赤く膨らんでいくみたい。あっ、もちろん生産者さんの苦労と愛情も含めてだけどね!」
ここまでおいしくなれるのは手間隙かけた人たちがいるのに、失礼なことを言ってしまったと思い、すぐに訂正した。
どこかでちえりさんが聞いているかもしれないと思ったけれど、本当に聞いていたのは、いきなり隣の畝から鉄パイプの下をくぐって現れた1人の男の人だった。
駆け寄ってきた男の人にいきなり強い力でガシッと肩を掴まれ、若葉は揺すられた。
「ねぇ!!今の話、ホント!?」
男の人の声からは緊迫した想いが湧き出ていた。少し怖いとさえ、思うほどに。
だから返す言葉も確信的な理由でないといけないかなと、責任をひしひし感じる。
「えっ……!あ、えと……花言葉って1つの花でも国や文化が違えば変わってくるんですけど……昔、私が読んだ花言葉の本には……確かに書いてありました……」