crocus
若葉がそう言うと、男の人の手の力が離れていくと共に瞳もゆらゆらと戸惑いに揺れていた。
「…………そう、なんだ」
「祥!!お前、なにして……っ!?」
目の前にいる男の人が先ほどくぐってきた位置から、また1人、男の人が怒鳴りながら近づいてくるも、信じられないような顔をして言葉を詰まらせた。
若葉は落ち着いて頭の中で1つ1つ整理を始めた。
目の前に現れた2人。
瓜二つの顔をされてるということは、双子さんなんだろう。
そして後から現れた男性は若葉の目の前にいる男性を『しょう』と呼んだ。それは……昔の誠吾くんのお友だちと同じ響き。
カチカチカチと点と点が繋がり、難しい数学の問題がスラスラ解けるような快感にも似た、ひとつの仮定の画が頭を独占した。
まさか……と思い、若葉は慎重に誠吾くんの方へ振り返った。
誠吾くんは前を見ているけれど、瞳の奥は暗く渦巻いていて、何の景色も映していなかった。
見ているのは過去の記憶かもしれないと思うと、若葉は誠吾くんの手のひらを掴もうと動いた。
「誠吾……?」
離れた場所にいる方の男性が放った言葉で確定した偶然の巡り合わせに、人の縁でこんなことがあるのかと身震いした。
若葉が誠吾くんの手をぎゅっと掴むと、現実に返ってきたのか誠吾くんの瞳に若葉自身が映った。
でもすぐにぎこちなく嫌々と首を振り、苦しそうに表情を歪め、目で若葉に訴えてきた。
離して
まだ無理だよ
助けて
そんな誠吾くんの中の葛藤が伝わってきた。それでも、若葉はその手を離してはいけない気がした。
ここで今、向き合わなかったらきっといつか後悔する日が来るかもしれない。親友なんて言える人に、出会えただけできっと奇跡だから。
誠吾くんの心の穴はクロッカスのみんなでも、私でもなく、きっと当事者であるこの双子さんじゃなきゃ埋められないはず。
若葉も首を振って、強く手を握り、逃げないで、と目で訴えた。だけど誠吾くんはひどく悲しそうな表情をした。
誠吾くんにしてみれば、若葉のことを過酷を強いる酷い人間だと思うかもしれない。話さなければよかったと後悔させて、築いていたはずの信頼を一瞬で壊してしまったかもしれない。
だけど……誠吾くんは言えなかっ言葉をまだ伝えられていないから、だから今までずっと引っかかったままなはず。