crocus
ビニールハウスから飛び出して、キョロキョロと誠吾くんの姿を探した。
貸し出す道具を仕舞っていた小屋の影に、誠吾くんのクルンと跳ねた金髪の髪が見えた。覗いている位置からして、座り込んでいるようだ。
呼吸を整えてから、そっと歩み寄って声をかけた。
「誠吾くん…っ、無理強いしてごめん…ね?でも…、このまま解決しないでいいの?」
「……だって…すぐに分かるくらい全然変わってないんだよ!?思い出すんだもん!きっと、ボクのこと気持ち悪いって思ってる!」
切なく高い大声を吐き出し、更にギューッと自分の足を抱きしめて顔を膝に埋めた誠吾くん。
若葉は両手の握り拳にグッと力を込めて、自分勝手な思いをぶつけた。
「そんな風に決めつけちゃダメだよ!わたし…嫌だよ。またこうして偶然出会うことがあるかもしれない中、誠吾くんにビクビクしながら生きて欲しくない!」
誠吾くんの背中を突き抜けて、心に届いてほしかったけれど、強く思っていることほど、上手く言葉に出来ない。
誠吾くんは、ザッと立ち上がると、僅かに潤んだ瞳で睨みつけてくる。歯を食いしばって、怒りをかみ殺しているように思えて、後退りをした。誠吾くんは、唇をあまり動かすことなく呟いた。
「ボクがどんな生き方をしようと、他人の若葉ちゃんには関係ない。ボクの気持ちなんて絶対に分からないし、分かって欲しくもない。お願いだから…放っておいてよ」
誠吾くんは、足を返して車が止めてある駐車場へと歩いていった。
若葉はそこから一歩も踏み出せなかった。少しの振動で、きっと目に溜まった涙が零れそうだったから。