crocus

鮫島が話した事情に、全員は絶句した。

息子を首席で入学させたいがために、恵介の担任だった教師を買収して入院という形で休職に入らせ、代わりに先生を臨時教師として送りこんだ。

そして、恵介に精神的ショックを与えるために、仲良くなってから、ちょっとばかし恵介の父親に抱きつかせたのだという。

あまりの傍若無人な話について行けずに、ドッと疲れてしまった。

「そうですか。そんなことのために…」

さすがの恵介も堪えたのか、力なく腕をだらんと落とし、瞳に陰りを見せた。

「でも橘くんは、受験すらしなかったようだね。相当あれだったのかな?まぁ…そんな奈緒子も情が湧いていたようだけどね」

先生は部屋の入り口に立ち尽くし、スカートの裾をぎゅっと握り締めている。そして、今にも消え入りそうな声で言った。

「ごめんなさい、ごめんなさい…本当に…ごめんなさい」

何度も謝る先生は、顔を両手で覆った。それでも漏れる呼気から察するに泣いているんだろう。

琢磨は先生のその手を見て、左手の薬指に通されたシルバーの指輪の存在に気づいた。



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