crocus
何気なく瞼を開いた後、視界の端に黄色いものがあると思えば、割れて半分になった白い皿の上に、かろうじて残っていた卵焼きが目に入った。
もしも自分なら…。
その卵焼きにそっと手を伸ばして掴み、ゆっくりゆっくりと琢磨くんの口に近づけた。
少し驚いた表情をしながらも、口をゆらりと開けてくれたところへ、そのまま卵焼きを人差し指で押し入れた。
そうして今度は琢磨くんの今も震えている両手を包み込んだ。とはいえ、男の子の手は大きくてただ挟む形になったのだけど。
耳が聞くことを止めてしまっても、料理を味わうことも、手のひらの温かさを感じることも出来る。そう思えたら少しはほっとする気がしたのだ。
嬉しいことに、琢磨くんもそうだったのだろうか。たちまち優しい表情になってほんの少し瞼の淵が赤くなり、瞳が光をたくさん含みだした。
何かを堪えるように、もぐもぐとゆっくり噛み締めるように食べていて、その様子がなんだか可愛らしく思えて若葉の顔が綻んだ。
すると琢磨くんの右手からゴトンと落ちた携帯電話。その音に驚きつつ、もう一度見上げると悲しそうな困ったような顔をする琢磨くんがいた。