crocus
琢磨くんは握っていた手を申し訳なさそうにそっと離して、散らばった昼ごはんを皿に乗せ始めた。
慌てて若葉も手伝う。幸い、拾いやすい固形物ばかりで床も大して汚れていない。
ご飯に心の中で謝罪しながら片付けていれば、琢磨くんが落ちたおにぎりを頷きながら、平然とパクパク食べていて驚いた。
「落ちたものはいいですからー!」
あ、そうだ、今は…。
ハッとして口を手で押さえる。
言葉ではなくて、表情とジェスチャーで食べなくていいことをワタワタと伝えた。
すると琢磨くんは、しゅんとしながら拾い上げた携帯電話をまたポチポチと操作しだした。
『ごめんな、また作ってくれるか?』
作成された画面の文章を読めば、若葉はすぐさまニッコリと微笑んだ。濁点や、漢字が使われていて、琢磨くんが落ち着きを取り戻しつつあることを表していたから。
やはりまだ気になるのか少し目を伏せながらも琢磨くんは笑い返してくれた。
ふと若葉はあることに気がつく。
自動的に脳内からぐるぐると先ほどの光景が素早く投影され、瞳の裏でそれを視た。
今日の朝、不機嫌そうだったのは雨だったから。
大音量でヘッドホンを通して音楽を聴いていたのも気を紛らわせるため。
そうとも知らずに琢磨くんになんてことをしてしまったんだろう。
自分が寂しかったから、安心したかったから…琢磨くんの大事なヘッドホンに手を伸ばしてしまった。
怒って当然だ。
でも琢磨くんは何も悪くないのに、いつ落ちるかも分からない雷への恐怖心を圧してでも、ヘッドホンをつけずに謝りに来てくれたんだ。
ご飯ありがとうって言いに来てくれたんだ。
どれだけ勇気を振り絞って、ここに来てくれたんだろう。
ありがとう、なんて言葉…言われる資格ない。
後悔が押し寄せて、胸が痛い。琢磨くんの優しさに、息が上手く出来ない。