あの子の好きな子

打ち上げ線香花火




【打ち上げ線香花火】



一緒に夏祭りに行きたいと言った。
だめと言われた。
またプラネタリウムに行きたいと言った。
だめと言われた。
卒業アルバムを見せてほしいと言った。
だめと言われた。

灼熱の太陽がぎらぎらに照りつける夏、何かが起きそうな予感とは裏腹に、私は先生にかわされ続けた。先生は私の色々な話を聞いてくれたし、夏休み中の理科の課題を見てくれた。おかげで夏休みの宿題は理科総合だけすぐに片付いたけど、私の個人的な夏休みの宿題は一向に進まなかった。先生に近付けない。

「先生って、どんな人を好きになるの?」
「ん?」
「今まで恋人だった人、どんな人?」
「うーん」
「・・・これもだめかあ」

先生は、肝心な質問はいつもごまかした。私はわざとらしくため息をついて、話題を変えた。セミの鳴き声が狭い準備室に響いて、ペットボトルが汗をかく。静かな夏休みの学校で先生に会えていることは幸せだったけど、いつもどこかもどかしさを感じる夏だった。



「夏休みももう終わりだなあ」

みーんみんみんみん。セミはいつでもやかましく鳴いていたけど、先生はいつでものほほんとしていた。この暑いというのに湯のみで熱いほうじ茶を飲んでいた。そういうところが変人だと思う。

「先生、実家には帰った?」
「帰ったよ。ちょうど、久保がテニス部の合宿に行ってる頃だったかな」
「あ、そうなんだ。・・・ていうか、実家ってどこですか?」
「山形なんだ。久保におみやげでも買ってくればよかったなあ、ごめんな」

先生は私が近付こうとするとがっちりとシールドを張るくせに、こういうちょっと嬉しいことをたまに言う。私におみやげを買ってくるのは、特別扱いではないのか。おみやげを買ってくるのはよくて、卒業アルバムを見せてくれるのはどうしてだめなんだろう。先生のラインがよくわからない。



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