あの子の好きな子



「山形だったら、さくらんぼとかですか?」
「そうだね。米沢牛とか。あとおいしい枝豆もあるよ」
「行ってみたいなあ・・・」
「いいところだよ」

先生は楽しそうに笑ったけど、私が行きたいのは山形県じゃなくて先生の生まれ故郷だった。どんなところで育ったんだろう。山がたくさんあるのかな、田んぼがたくさんあるのかな。きっと、ゆったりとした時間が流れるのどかな場所で、愛情たっぷりに育てられたんだろう。どんな友達と遊んで、どんな女の子に初恋を捧げたんだろう。

「ねえ、先生、どうしても、卒業アルバム、だめ?」
「こだわるなあ。なんでそんなに見たいの」
「私と同い年の先生が見たいの」
「たいして変わらないと思うけど。卒業アルバムって重いんだよなあ。どこにやったか覚えてないし・・・」
「先生いっつも分厚い重そうなハードカバーの本かばんにつまってるじゃないですか。それを、卒アルに変えるだけ!写真1,2枚でもいいから。だめですか?」
「まあ、見つかったら持ってくるよ」

先生はずずずとお茶をすすった。絶対探す気なんてないと思う。先生は自分の好きなことには没頭するタイプだけど、身の回りのことにどうもうとい気がする。じゃなきゃシャツが毎度毎度こんなにしわくちゃなわけがない。お世話をしてくれるお嫁さんがいないと、ひとりじゃ生きていけないタイプだと思う。かといっていきなり婚活されても困るけど。

「あーあ、つまんないな。卒アルも見せてくれないし。お祭りも行ってくれないし」

私は先生が作ったプリントのホチキスどめを手伝いながら、これ見よがしにため息をついた。

「・・・お祭りは友達と行っておいで」
「もう行ったもん。先生と行きたかったんです」
「それは、できないことになっちゃうかなあ」
「先生。先生の、アウトとセーフのラインってどこなの?そのギリギリのラインのところ、教えてください」

先生は、目をぱちぱちさせて考えていた。思い切り困っていたけど、私はじっと先生を見続けた。



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