あの子の好きな子

できない約束





【できない約束】




新学期になってから、先生が遠く感じた。
準備室に行ってもいないことが増えて、いたとしても何かと理由を付けては私を帰らせた。たまに話が出来ても、あまり目を見てくれないし、笑いかけてくれることが減った。もういい加減に愛想を尽かされたのかもしれない。わがままで自分勝手な私のラブコールにうんざりしたのかもしれない。先生は私にくれた夏の思い出ひとつを最後に、これで諦めろと言っているのかもしれない。そんなことばかり考えた。

放課後、準備室に行ったら先生がいなくて、肩を落としながら帰ろうとしたら声をかけられた日があった。クラスメイトで仲のいい男の子だった。その日はたまたま一緒に帰ったけど、その日以来、放課後になると何かと彼がひょっこり表れるようになった。

「久保、今帰り?」
「あ、会長・・・」

私は彼を会長と呼んでいた。中学校の時に生徒会長をやっていたようで、中学時代からの友達にそう呼ばれていたから。それが今のクラスでも浸透していて、今は生徒会長でもなんでもないのに彼はみんなから会長と呼ばれていた。

「帰ろうよ」
「あ、うん」

私は今日も空っぽの準備室を見て来てがっかりしたところで、上の空のまま返事をした。私は部活のない日は友達同士の下校の輪から抜け出して準備室に行っていた。それでも先生が来ない時は、とぼとぼと一人で帰ることがほとんどだった。私は準備室についてから、先生が来ないものかとある程度待ってから帰るから、下校時間としては遅めのはずなのに、会長とはいつも下駄箱のあたりで会った。

「久保ってさ。HR終わったあと、帰るまで何してんの?」
「え?ああ、うーん、色々・・・散歩とか・・・」

下駄箱からローファーを出してぽとんと落とした。今日も先生と話せなくて、なんだか靴も重く感じる。


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