あの子の好きな子




会長は申し訳なさそうに話を始める。ちょっと顔が赤いのは照れ臭さもあるのかもしれない。

「部活の奴らが、ふざけて言いふらしたんだ。この前、あの、噂のことからかわれて、早く告白しろよとかって言われて・・・別にそんなの、噂が立ってから毎日だったんだけど・・・」

会長は何度もどもりながら喋る。少しだけ赤いかもしれない程度だった顔が、はっきりと赤いとわかる色に変わってきたので、なんだか私も恥ずかしくなってきた。

「誰かがふざけて、球技大会で優勝したら告白しろって、言い出して・・・何言ってんだよみたいなノリだったんだけど、なんか勝手に盛り上がっちゃって、どんどん広まってて・・・ごめん、本当に」
「う、うん、わかった。あ・・・あるよね、そういうことって」
「一部の奴らが面白がって言ってるだけだから。そんなことするつもり、ないから・・・困らせてごめん」
「あ、うん、大丈夫・・・」

会長があまりにも必死で、私はただ「大丈夫だから」と繰り返した。ひやかしの対象になるくらいどうってことないけど、会長の気持ちを考えると、私はどうリアクションをとっていいのかわからないのだ。会長にとって私はどういう存在なんだろうか、もうそこをはっきりさせたいというのも本音だった。これまでさんざん甘酸っぱいムードを作り続けてきた会長だけど、はっきりそうと伝えられるまでは動けない私は子供なんだろうか。だって、蓋を開けてみたら自意識過剰なだけかもしれないじゃない。告白もされていないのに断るなんてできない。それとなく示すことなんてできない。ああ、やっぱり私って頑固なんだろうか?

「と、とりあえず授業だから教室戻ろう。あ、俺向こうから行くから!別々に戻るから大丈夫!」
「うん、大丈夫、ごめん会長気遣わせて・・・」
「いや、ごめん!本当にごめん」

何度も謝る会長に、「いや、ははは」となんとも微妙な愛想笑いを返した。ちょうどそのとき、開いたままの職員室の扉から、深緑色のセーターを着た先生が出て来て目が合った。会長のことでごちゃごちゃに散らかっていた頭の中が、一瞬で強風に吹かれたみたいに何もなくなった。篠田先生だ。

「授業、始まるぞ」

先生はいつもののんびりした調子でそう言っただけだった。一部の層だけとは言えどんどん広まっている私の噂を、先生が耳にしないことを祈った。そんな噂、先生にとってはなんでもないのに、ただ先生には知られたくないと、チャイムが響く廊下でそれだけ願った。


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